その先客は異様な仮面をつけていて、どこか野生的な雰囲気が漂っていた。
が「クラスの男子が持ってたレゲエ系の人形に似てるかも…」とのん気に思っていると、
仮面の人がギロリと睨んできた。
「……。」
「…中で食事しないんですか?」
「我、食事…イラン」
「食べないんですか?」
「我、イラヌ…」
そう言うと仮面の人はまた空に向き直った。
も黙ってその隣に座り空を見上げてみた。
すると不思議そうに仮面の人がを見た。
「…オ前…何故ココニ居ル?」
「何故って…あなたが1人になっちゃいますよ?」
「……。」
「ほら!見てください!あれが天狼星ですよね!ここで見るシリウスってちょっと赤いんですよ」
「…シリウス?」
「天狼星のことです。…あ、そういえばあなたの名前は?」
「……我、魏延。」
「魏延さんですね!私はって言います。これからもよろしくお願いしますね。」
「ムゥ……」
暫く大好きな星を色々と魏延に教え、2人で夜風に当っていた。
冬の大三角のことを教えると「空ノ三角トハデカイナ」と何回も何回もその三角を指でなぞっていた。
も一緒になってなぞってみる。
「オ前、物知リダナ」
「星が好きですから…」
「我、三角忘レナイ……」
魏延はどこか満足そうにもう一度空の三角をなぞると、
にほんの一瞬だけ口元で微笑みかけた。
「我帰ル。オ前、中ニ帰レ。」
「寝ちゃうんですか?」
「寝ル」
魏延はゆっくり立ち上がると、薄暗い廊下を歩いて行った。
「どこか変わった人だな…」と思いつつも「いい星仲間を見つけたな」と、
少し魏延に親近感がわいていた。
「ヘックシン!………外はやっぱり寒いや」
このまま外に居たら風邪をひくだろう。
今頃みんな何してんだろ?と、服の上から体をさすりながら広間に戻ってみると…。
「張飛が80杯目に入ったぞ!!!」
「徒兄上!まだまだ飲めますよ!」
「哀!喜!あの餓鬼に負けるなよ!!」
「黄忠殿〜!大丈夫ですか?!」
「青二才が〜!!わしはまだまだいけるぞい!!」
まだまだ飲み比べ大会は続いていた。
参加者の顔はみんな同じ真っ赤で、もうフラフラフラフラしている。
特に姜維と黄忠はかなりヘロヘロである。
広間に入って少し進むと『喜』が「あ!!姫さ〜んv」とニマニマしながら走ってきた。
近くによっただけで酒の匂いがプンプンして、こっちまで酔ってしまいそうだった。
「お酒臭いよ喜…」
「だって飲んだもんv」
「そんなに飲んで大丈夫なの?」
「さぁ??」
「え、さぁ、って?!」
「ほら姫さん来て〜v」
「きゃ!」
は『喜』にお姫様抱っこされると広間の酒臭い中心部におろされた。
それに『哀』が気付くと杯を1つ女官からもらい酒を入れてに渡した。
「…姫、飲んで」
「え!!!私未成年!!!ちょっと無理!!!」
「…嫌だ、飲んで」
「それでも無理!!!」
「……飲まないなら……」
「ちょっ!!?」
ガシッとの両腕を後ろから掴むと『喜』の方へ向けた。
『喜』の手には酒のたっぷり入った杯が…。
の背中に汗がほとばしる。
親から少しもらったことはあるが、不味くて飲めなかった。
ただチューハイは飲めたが清酒は無理だ。
「嫌だーーー!!!」
「姫さんv口開けてvvv」
「嫌だ嫌だ嫌だ!!!」
「!!!おめぇ飲まねぇと許さねぇからな!!!」
「張飛さん?!」
「まさか、酒も飲んだことがないのかお前?」
「…な…」
「やはりただの娘だな」
馬超が鼻で笑うと酒を飲んで嘲笑してきた。
…これは馬超からの挑発だ。
「なんだかムカつく…」
あの派手兜め。
今に見とけ。
は『喜』から杯をひったくるとグッと傾けて酒を飲み干した。
あの独特のアルコールの匂いと味が口の中に広がる。
そして喉が焼けそうなほど熱くなった。
更にかなりの量を飲んだので熱さが半端じゃない。
は挑発に乗って飲んだことを後悔した。
「ほう、飲めるのか」
「チューハイなら飲めるけど…やっぱりこれ不味い…」
「ちゅーはい?」
「なんでもないです。」
がもうこれでいいでいいよね…とその場を離れようとしたが『哀』の手がそれを阻止した。
更に『喜』の手も腰に巻きついてきた。
周りから囃し立てられる声が聞こえる。
「囃すよりも助けてよ!」と目で訴えても誰も気付いてはくれず。
『喜』の手が腰辺りをどこぞの変態オヤジのように撫で回してきた。
「今夜は、は・な・さ・な・いvvvv」
「何それ?!!!喜、手つきが嫌だ!!!」
「…姫もっともっと飲んで」
「ちょっと待って哀!それ酒樽だよ!!?」
「姫さん、ちゅ〜vvvv」
「いや、ちょっと、止めなさいって…!」
「…覚悟」
「え!ちょ、ちょちょちょっと!!!」
「…………大丈夫か?」
「怒、私生きてる?」
「一応…生きてる」
「…私生きてる?」
「……いや、死んでる」
静まり返る広間(張飛のいびきがBGM)の中、『怒』との声だけが響いていた。
他の武将達もここで寝ている人が多い。
女官達が寝ている人達に布団をかけたりなんやりして、忙しそうにしていた。
「服、本当に自動修復するんだね」
「お、おう…」
「哀が投げた酒樽、結構お酒入ってたんだ…私頭からかぶったのに」
「そういえば喜も一緒に浴びてたな…」
「だってほっぺに…ほっぺに………」
は熱くなった顔を両手で覆うと、横たわったままブンブンと頭を横に振った。
あの後は悲惨な目にあった。
『哀』の投げた酒樽は空中で酒をばら撒き、『喜』は何回もの頬にキスをし、
そのまま一緒に酒の雨の餌食に。
あれほど酒が怖いと思ったのは初めてだ。
もうこれからはあの2人に酒は飲ませないと、絶対に飲ませてはいけないとは思うのだった。
「頭痛いよ…」
「すまねぇな…姫さん」
「もうみんな寝ちゃったんだ?」
「ああ…張飛、馬超、哀、喜…あとあの姜維とかいう奴とじいさんが寝てる。
殿さんや他にも寝てるみたいだが…?」
「…そう…」
「姫さん、どうする?ここで寝てもいいし、部屋に帰りたいのなら連れて帰るぞ?」
「………。」
「姫さん?」
「…………。」
「寝たのかよ…」
『怒』は溜息を付くとの頭をそっと撫でた。
きっと明日は二日酔いに悩まされるに違いない。
これからが大変なんだぞ?と小さく呟いて苦笑を漏らした。
「にしても…ここで寝るのもな…」
ここで寝るのもいいが、ここは少し寒い。
いくら布団をかけていても寒いだろう。
『怒』は部屋に戻ると決め、『哀』と『喜』を抱えのところへ行こうとすると、
後ろから「おい」と声を掛けられた。
この声は気に入らないアイツの声。
「…ずっと起きてただろ、餓鬼が」
「やはり気付いていたのか?」
「耳はいい方だからな。息遣いで寝てんのかどうか分かる。」
「ほう。……それよか手伝ってやろうか?」
「何をだ?」
「お前のとこの姫を運ぶのを、だ」
「あれだけ侮辱して、何様のつもりだ?」
「…朝の失態の償いだ」
馬超は『怒』が睨みつける中、を抱えあげるとフッと笑みをこぼした。
「乱世に似合わん間抜けな寝顔だな」とちょっと嫌味に言ってみせるが、
は「うーん…」と唸るだけだった。
「どういう風の吹き回しか分からんが、今回だけは頼む」
「承知した」
『怒』は2人をもう一度抱えなおして先頭を歩いた。
その後を馬超が続いた。
あれから考えた。
何故が気に入らないのか。
何故あの笑顔を見ると腹が立つのか。
戦いも知らないような態度。
死も知らないような明るい目。
最初に見た時、それが気に入らなかった。
天狼の姫については、諸葛亮が祈祷に行く前に劉備殿から聞いたことがあった。
その姫は力を欲すれば力を貸してくれ、乱世を早く終わらせることが出来ると。
どんな姫が来るのだろうか。
威厳のありそうな、神々しささえ持ち合わせていうような。
きっと乱世を終わらせる力を持つならば、そんな姫が来るのだろうと思っていた。
が、実際来たのは徒弟の馬岱と変わらないくらいの少女。
更に全く緊張感のないただの娘。
こんな娘に乱世を終わらせるような力があるのか?
この娘に力を借りなければこの乱世は終われないのか?
それにあの笑顔。
心に残るあの懐かしい笑顔にどこかそっくりで。
それが更に気に入らなかった。
「おい、ついたぞ」
「…!」
「寝台に姫さん寝かせてくれるか?」
「ああ。」
馬超は月明かりのみの薄暗い部屋に入ると、を寝台に寝かせて布団をかけた。
小さな寝息が馬超の耳に入ってくる。
暫く様子を見ていると、『怒』が怪訝な顔をして馬超の横に立った。
「姫さんと寝たいとか言いださねぇよな?」
「ん?寝てもいいのか?」
「もちろんダメに決まってるだろ。」
「なら聞くなよ。……それでは俺は失礼する」
「今日のところは感謝しといてやるよ。次は言わねぇ。」
「わかってるさ」
ぽん、との頭を叩くと馬超は静かに部屋から出た。
すると冷たい空気が全身を包み込んだ。
今日はどうやら冷え込みそうだ。
そしてふと廊下から夜空を見上げると天狼の星が明るく光っていた。
どの星よりも明るく光るその星。
まるでアイツのようだ。
「らしい星だな、お前は。」
そう言うとその星が一段と明るく輝いたように見えた。


アトガキ
魏延登場vそして馬超が別人に…汗
なんだか『怒』夢っぽくなりかけてますが、なんとか…ね!汗
馬超の気持ちについてなんですが、よくわからないですね。
要は気に入らないんです。
自分よりも年が下で非力そうな女が、すごいだなんて思いたくないんですよ。(多分
そして笑顔にそっくりなのは…うふふのふv
神様…ベタな話しかかけない私に文才ください。
2007.1.28(San)