心臓が痛いほど鳴ってるのがわかる。
あの視線を自分から離してほしい。
早くそっぽを向いてほしい。
が何度も願っても、馬超は視線を外さなかった。
「殿、どうした?」
「あ…すみません劉備さん。たくさんの人達がいたので…」
「ははは、そうか…皆私の自慢の臣達だ。」
「(劉備さんは人を大切にする人なんだ)」
「さ、この椅子に座ってほしい。」
「はい」
広間の真ん中の通路を通る。
色んな武将達からの視線を浴びる中、やはり1人だけ痛い視線がある。
嫌だな、と思いながら下を向いて歩いていると馬超の朝の言葉を思い出した。
…なんであんな嫌な人におどおどしなきゃいけないんだろう?
だんだんとムカついてきたはグッと拳を握った。
「(あんな派手兜に睨まれて怖気づく私じゃないもん!もう気にしないでおこう)」
は用意してあった椅子に座ると堂々と胸を張って前を見据えた。
続いて隣に『怒』『哀』『喜』が座った。
「諸葛亮の4日間の祈祷の末、天狼の星より姫と使者達が来てくれた。
皆にまず紹介をしたい…さぁ殿、皆にそなたと使者の名前を教えてやってくれ。」
「はい(緊張するなぁ…)」
ふと馬超の隣を見ると、姜維がこちらを見てニッコリとしていた。
姜維さんもいるじゃない、と思うと緊張がほぐれていく気がした。
そして一呼吸おく。
「私の名前はです。どうか気軽にと呼んでください。使者の名前は手前から、
『怒』『哀』『喜』です。今は人の格好をしてますが狼になることもできます。」
の紹介が終わると広間がざわついた。
この反応が見たかったのだ、と劉備は満足して広間を見渡していた。
すると1人の老将がに向かって叫んだ。
「その狼になるというところをわしらに見せてほしいんじゃがのう!どうじゃ?」
「あ、はい…それじゃ…」
「ボクが行く!」
「…なら喜、お願いね?」
「はーいv」
『喜』は椅子から立ち上がって広間の中央の通路に立った。
皆の視線が『喜』に注がれる。
ただ馬超だけはそっぽを向いて酒を口に含んでいた。
「んじゃ、おじいちゃん。よく見ててねv」
老将は「わしゃまだ現役じゃ!」と言いかけたが『喜』の変化時のボンっという音にかき消された。
そしてパッと狼の姿になった『喜』を見て皆が「おおお!!」という歓声をあげ拍手をした。
しかし老将はびっくりして腰を痛めたようだが…。
『喜』がまたボンっと人へ戻り席に戻ると、劉備はパンパンと手を叩いて注目を集めた。
「我ら蜀のために力を貸してくれる方だ。どうか丁重に…」
「劉備さん、丁重ではなくて、普通に接してくださいってお願いします!」
「そうか。ならば、皆友や孫、娘のように接してやってほしい。」
「兄者!!早く宴始めようぜ!!酒が不味くなっちまうぞ?」
「翼徳、ちょっとは我慢しないか…」
「いやいいんだ、雲長。…皆待たせたな…では、宴を始めよう!」
劉備がそう言ったとたん、次々に女官達が入ってきて机の上に沢山料理を置いていった。
が恐る恐る隣を見ると『怒』たちはもう食べ始めていた。
…もちろん昼と同じあの勢いで。
「(もうこういう時だけ野性本能なんだから…)」
「殿、1ついいか?」
「なんですか劉備さん?」
「と呼ばせてもらってもいいだろうか?」
「もちろんです!それと敬語も使わなくていいので…」
「そうか、ではわが子のように接しよう。」
「…なんだか照れますね」
「はははは!恥ずかしがりやなのだなは」
劉備は「可愛い娘ができたようで嬉しい」と言って、の皿にどんどん料理を盛っていった。
その量を見て、食べきることはできないだろうな…とひそかに思ったができるかぎり食べようと決めた。
「そういえば…」と、 は周りをみて諸葛亮を探した。
諸葛亮はすぐ見つかったが隣には綺麗な女の人が座っている。
「(奥さんかな?…なんだかとても素敵な人…)」
じっと見ていると、奥さんらしき人物はににっこりと微笑みかけた。
はドキッとしてピッと顔を背けた。
顔に血液が全部集まってるような気がする。
「(…もしあの人が諸葛亮さんの奥さんなら、諸葛亮さんはとんだ幸せ者だなぁ)」
あんななりしてあんなに美人な奥さんをもらっちゃって…と、小さく言うと今度は誰かの視線を感じた。
馬超のもの…ではないが、さっきからすごく見られているような気がする。
ちらっとその方を見ると穏やかそうな青年と目が合った。
が、青年はすぐに視線をそらした。
「(もしかして化け物扱いされてるのかな…私)」
星から来た、となるとただの人間ではないと思われるのは普通だ。
だけど偏見されているようでいい気分にはなれなかった。
もう劉備さんが盛ってくれた料理早く食べよっと、と箸を持ち料理に箸をつけた。
そして口に入れるとどこか懐かしい味がした。
「姫さん、大丈夫か?」
「んー…大丈夫…」
「どうしたの??食べ過ぎたの??」
「そうみたい…」
「…水もらう?」
「うん、もらってくる」
は椅子から立ち上がると水差しを持っている女官のところまで歩いていった。
あれから1時間くらいがたったのだが、は無理して皿に盛ってあった3/4をたいらげてしまったのだ。
今はもうこれ以上は食べれないというくらいお腹がはちきれそうである。
水差しを持っている女官に声を掛けようとしたが、嫌な声に呼び止められた。
「おい、こっちに来い」
「………(どうしよう…)」
「この俺を無視するとは、いい度胸だな?」
「すみません、今行きます(素直にしておこう…)」
また嫌なことを言われるのか。
そう思うと心臓が握りつぶされたように苦しくなった。
馬超の隣に立つと、意外ににも椅子を用意して「そこに座れ」と言ってきた。
だがまだ安心はできない。
「…そう硬くなるなよ。」
「なります」
「朝のこと、あれは謝る。俺が悪かった。」
「え?」
「だが俺はどうしてもお前が気に入らない。」
「…私も馬超さんが気に入りません(だろうと思ったよ…)」
「そうだろうと思ってな。……お前、馬に乗れるのか?」
「いえ…全く乗れません。」
「ならば俺が馬術を指導してやる」
「馬術を…………………え゛。」
「『え゛』、とはなんだ『え゛』とは。…これからは共に蜀を支えていく仲間だ。
お互い嫌がっていては埒があかんだろう?」
「それはそうだけど…」
馬超からふっかけてきたような喧嘩なのに、とは思ったがそれは心の中にしまっておいた。
しかし、馬超の言うとおりお互い嫌がったままだとこれからやっていけそうにない。
それに毎回馬超なんかに気を使うのは嫌だ。
「一応諸葛亮殿の許可をもらってやったぞ。馬術を指導しつつお前を知っていこうと思っている」
「ふーん……。」
「…なんだその目は?」
「別になんでもないです。でもそれ賛成です。…馬超さんがどれだけ嫌〜な人なのか、
見させてもらいますね。…それじゃ、失礼。」
「な!お前!!!」
今日の朝の仕返し完了!と小さくガッツポーズをして女官から水を無事もらうことができた。
それにしても馬超に一体何が起こったのか。
朝のあの態度とは全然違う。
は不思議に思いながらも自分の席について水を飲んだ。
暫くは広間の中心で行われている張飛と『喜』と『哀』の飲み比べ大会を見ていたが、
酒の匂いに頭がくらくらしだして机にへばりついた。
それを心配そうに『怒』が覗いた。
「姫さん、酒気にやられたのか?」
「そんなとこ…張飛さん達飲みすぎだよ…」
「張飛はともかく、あの2人は酒豪だ。そう簡単には倒れねぇだろうな」
「そうなんだ…(あれ?なんか怒って…)」
「どうした姫さん?」
「いや、なんだか怒って馬超さんに少し似てるかもって思っただけー…」
「あんな胸糞悪ぃ野郎と一緒にするな…と言いたいが、俺もそれは少し思った。」
「でしょ?……外に行くついでにちょっと姜維さんのところ行ってくる」
「俺には構ってくれないのかよ?」
「今日泥んこになるまで散々構ったからね」
「ちぇっ…ほらこけないように気をつけろよ、姫さん」
「はーいはい」
はひょいっと椅子から立ち上がると姜維のところへ歩いて行った。
姜維の席には2人ほど先客がいた。
見たことのない真面目そうな人とさっきの穏やかそうな青年だった。
お邪魔しちゃ悪いかな…とその場を離れようとすると姜維がに気付いた。
真面目そうな人と穏やかそうな青年もに気付く。
「殿、やっときてくれましたね!」
「へ?」
「今ちょうど殿の話をしていたんですよ?」
「そうだったんですか…」
酒を飲んだせいか姜維はいつもより陽気で喋りだし、
ニコニコしながらに椅子を用意した。
「姜維さん、この人達もみんな武将なんですか?」
「はい。こちらが趙雲殿で、あちらが馬岱殿です」
「はじめまして殿。噂で聞いておりました」
「う、噂になってたんですか?」
「1日中貴女の話題で持ちきりでしたから…」
趙雲は「兵達も噂が気になって鍛錬に身が入ってませんでしたから」と苦笑して言った。
まさかこんな短い間に自分のことが噂になっていたとは…。
は「きっとこれから先自分が噂になることなんてないだろうな」と思いながら一緒になって苦笑した。
すると馬岱がじっとこちらを見ているのに気が付いた。
またそっぽを向かれるかな?と思っていると馬岱はちょっと口元を緩まして微笑んでくれた。
「殿、これからどこかに行かれるのですか?」
「はい、ちょっと外に出ようかなって。お酒の匂いに頭がクラクラしちゃったみたいなんで」
「そうですか、なら私」
「おい姜維!!!おめぇも飲め!!!」
「わ!!!」
私も行きます、と言いかけたが酒樽を持った張飛に首根っこを掴まれて中央の方まで連れられてしまった。
そこには馬超も先ほどの老将も参加させられていた。
まだ『喜』も『哀』も「これくらいちょろい!」という顔で酒を飲んでいたが、
本当に大丈夫なのだろうか。
「あらら……んじゃ私は外に行ってきます」
「お1人で大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、趙雲さん。それでは…」
はその場を離れて外に向かった。
それにしても馬岱はとは口をきこうとはしなかった。
ただずっとを見て微笑んでばかり。
「(化け物と話すのは勇気がいるもんね)」
と、ちょっとズキッと胸がいたんだが「しょうがないよ」と心に言い聞かせた。
そして外に出る扉を開けると、そこに先客が1人。
廊下に座って星空を眺めていた。


アトガキ
や…やっとでけた…泣
一応老将は黄忠さんです。
弓道人としてあの弓の腕、すごく欲しいんですよね…(ジュルリ
何気に馬岱さんも出してみました。
横山三国志を見て馬超と馬岱に見事射落とされました。(ぇ
でも沢山人を出すと文が困りますね…泣
ヒロインさん馬超から和解宣言されましたが、まだまだお互い敵視してます。
ちなみに『怒』は馬超に似てるという設定にしてしまいました。
似てないけど似てることにしてください;泣
次では宴の続きとなっておりますv
2007.1.28(San)