「哀〜姫さんの調子どう??」

「…ダメ、…完璧な二日酔い。」

「あぁ…可愛そうな姫さん!」

「喜…うるさいよー…頭に響くんだって…」






次の日、は案の定二日酔いとなり体調を崩していた。
予定していた姜維との朝食は中止となり(姜維も二日酔いらしい)、
このままだと昼食も食べれそうにない。
もう太陽は真上に来ているというのに…。





「みんなご飯食べてきたら?…また昨日みたいに死ぬよ?」

「そうだけど…姫さんこそ死にそうでしょ??」

「…私は大丈夫!今日はちょっと横になってるから、みんなで食べてきて?」

「……怒、どうするの?」

「多分俺達がいるとうるさくなるから、昼は素直に食べに行こう。1人にしても大丈夫か?」

「もちろん!…あ、行儀よくして食べてね?」

「分かってるってvじゃ、お粥か何か持って来るから待っててね姫さん!」

「ありがとう、喜」




よしよしと『喜』の頭を撫でた。
悦に浸る『喜』と「1人だけずるい」と目で訴える『怒』と『哀』。
そんな3人を見ているとは自分の妹と弟のことを思い出した。


「今ごろ何やってるんだろう。」


ポツリと呟くと布団を深く被った。





「よし、行くぞ」

「はーいv」

「……。」





3人もの体調を気遣って、さっさと部屋から出た。
部屋は無音の世界へと変わる。

なんだかちょっと寂しい。



窓を見ると空は灰色の雲が覆っていた。
もうすぐ雪が降るのかもしれない。
つま先が冷たく感じる。
家に置いている愛用の毛糸靴下が恋しくなってきた。











コンコン………


…殿?」



「…はい?(あれ、誰だろう?)」





が窓から見えた鳥の数をボーっと数えていると、扉を叩く音と聞き覚えのない声が部屋に響いた。
声からして女の人ではない。

「なんなんだろ?」と寝台から起き上がり、扉を小さく開けると、
馬岱が両手に沢山の果物を抱えて立っているのが見えた。
廊下が寒いのか少し肩が震えている。



「どうしたんですか?馬岱さん?」

「その……果物を差し入れに」

「中、入ります?廊下はとても寒そう…」

「…ならお邪魔します」




馬岱はそう言うとにっこり微笑んだ。
私のこと化け物って思ってなかったのかな?とは思ったが、頭が痛くてそれどころじゃなかった。
フラフラしながらも馬岱を招き入れ椅子を用意した。
自分も椅子に座ろうとしたが「殿は寝ていてほしい」と馬岱が止め、結局寝台に寝かされた。



「…今日は殿に用事があってきました」

「は、はぁ…?(何の用事かな?)」

「徒兄上…っておわかりですか?」

「馬岱さんだから…馬ー…………え、もしかして馬超さんの弟さんだとか…?!」

「実は徒弟なんです。…それで徒兄上から手紙を預かってきました」

「?」




馬岱はごそごそと自分の懐を探ると、四つに折りたたんだ紙をに渡した。
さっそく開いて読んでみよう…と思ったが、文字が読めなかったことに気が付いた。




「馬岱さん…申し訳ないんですけど、読んでもらえませんか?」

「字、読めませんか?」

「はい、この世界の文字読めないみたいなんです」

「わかりました、なら読みますね?」




は紙を馬岱に渡すと、嫌味でも書いてあるんだろうな…と思いつつ耳を傾けた。






『よう、気分はどうだ?昨日はあれだけ酒を飲み、浴びたんだ。今日は頭が痛いだろう?

今日は大人しくしとくんだな。あの狼ども(元気なのと暗いの)と遊んでると痛い目にあうぞ。

…そういえば馬岱が朝からお前にと言って、…』




「…ここ、飛ばします」

「え?!(す、すごく気になるんですけど…!!)」

「ここ3行どうでもいいことが書いてあるので…」

「はい…(どうでもいいことなのに馬岱さん顔赤いよ…)」




『でだ。昨日の夜に言った通り、馬術を教えるからな。言っとくが甘くはないぞ。

今日はキツイだろ?だから明日の午後に迎えに来てやる。それまでに動きやすい服を着ておけ。

ヒラヒラした服だったら問答無用で脱がすからな。嫌ならちゃんとしておくよう。

では、明日会おう。』





馬岱は読み終わるとすぐに懐に紙をなおした。
…飛ばした内容がすごく気になる。

じっと見ていると馬岱はニッコリと笑って「飛ばしたところは気にしないでくださいね」と言った。
そのときゾクゾクっと何かが背中をさすったような気がした。
この人にはあまり逆らっちゃいけないような気がする。





「それでは私は帰りますね。よく休んでください。」

「あ、はい!…馬岱さん、ありがとうございます。」

「!!…お、お大事に!!」

「え?!ちょ…っと?」




馬岱はまるで早送りをしたような速さで部屋から出て行った。
この人も姜維と一緒で照れ屋なのだろうか?

机の上に置いてある果物は林檎に似ていた。
「後で哀に皮剥いてもらおう」と、はまた布団を被りなおして眠りに付いた。































「(久しぶりに緊張したな……。でも…話せてよかった…)」

「お、岱。顔がにやけてるぞ?」

「わっ!!」



カランッと持っていた書簡が落ち、高い戸棚に書簡を置こうとしていたので椅子に立っていたが、
馬超の一言で思いっきりその椅子から落ちた。
受身はしたものの、馬岱は後頭部を少し打ってしまった。



「いたたたた………もう、何言ってるんですか徒兄上!!!」

「何って見たそのまんまを言ったんだが?」

「…ったく…それよりこの前の賊伐の報告書出しましたか?!」

「ん?!…そ、それはだな、……出してない」

殿に教えたらきっと笑うでしょうね…いい年して仕事もちゃんとできないだなんて…」

「……勝手に言ってろ」

「あと、徒兄上…変なことは書かないでくださいよ!」

「ふーん。」



馬超はグチグチ言ってくる馬岱の言うことを全て耳に流して、目の前の報告書に筆を適当に走らせた。
本当のことを書いたのだから別にいいではないか。
朝早くでかけたと思ったら果物を沢山抱えて帰ってきて、嬉しそうにニコニコしてたのだから。
こっちとしてはいいからかいの対象である。

ただ、どこかつまらない。





「…よし、終わった。女官と遊んでくる」

「またですか?…いい加減やめたらどうです?」

「…気が向いたら」

「全く…早めに帰ってきてくださいよ?」

「分かった分かった」





そう言って馬超は部屋を出た。
大抵あの「分かった分かった」は帰りが遅くなる。
どうせ女官と一夜を共にするんだろう。

馬岱は溜息をつくと馬超の書いた報告書を見た。
その報告書にはただ、

『盗賊の頭1人、手下多数、賊伐完了』

としか書いていなかった。






















「姫さーーーーーーーーん!!!!」

「うわぁーーーーーー!!!!!!」




折角いい夢を見そうだったのに…と残念がるに対して『喜』はニコニコ顔で抱きつく。
後ろでは呆れる『怒』と『哀』が、お粥らしきものを持って立っていた。



「…姫、月英さんっていう人が作ってくれた」

「月英さん?」

「あの諸葛亮のじじいの妻なんだと。」

「(多分あの人だ!!!)」



宴の時に諸葛亮の隣で微笑んでいた女の人が脳裏に浮かんだ。
バッとお粥を見ると、いい色で湯気を立てていた。
お粥の上にはちょんと野菜がのせてある。
あの綺麗な人が作ってくれたなんて…これはお礼を言いに行かなければ。

が寝台から起きようとすると『喜』にトン、と押されてまた寝台に倒された。




「月英さん言ってたよ?いつかお話ししましょうってvだから今日は休みなさい!」

「うわ〜…喜に言われたくない…」

「え!酷い!!!」

「……確かに」

「哀まで?!」

「お前ら!!!姫さんの粥が冷めるだろが!!…ほら喜食べさせてやれ」

「はーいv」

「(喜ってなかなか落ち込まないんだ…)」

「姫さん、口移しとレンゲとどっちがいい??」

「ぇえええ?!!!!レンゲェッ!!!!!!!!」

「そ…そんな否定しなくても…」

「だって私キスもしたこと無いのに…」

「きす?」

「その…あれよ、くー…」

「口付け?」

「そう、それよ哀!…って哀なんでしってるの?」

「…姫が夜中唸ってた。喜がキスしたって。兄さんがしたことは口付けだから。」

「え゛」

「あれ?もしかして意識してくれたの??」

「え、いやだ、そんな…意識なんてしてない…かも。」





『喜』がニマーッと口元を緩ませる。
するとお粥をレンゲでそっとすくって自分の口に入れるとに体を倒してきた。
…まさか、これはファーストキスの危機なのでは…?


「ちょ、ちょっと?!!」


唇まであと数センチしかない。
ヤバい。
これは乙女のピンチだ!!!





「っりゃ!!!!」

「ぐほぁ!!!!!」

「あ…」





が、間一髪で『怒』が阻止に成功した。
横からすごい勢いで蹴飛ばされた『喜』は数メートル離れた場所でピクピク痙攣して倒れている。
今度は『怒』がレンゲを持つと粥をすくっての口元に持っていった。




「二日酔いでこんなになるなんて…ごめんね。」

「しょうがないだろ?ほら、食え食え」

「ん…(このお粥美味しい…)」

「…姫が早く元気にならないとつまらない。」

「哀、明日は一緒に遊ぼうね?」

「…うん、沢山遊ぶ。」




『哀』は少しだけ微笑むと寝台に上がっての隣に寝転がった。
なんだか本当に妹みたい。
そう思った瞬間、少しだけ日本が恋しくなった。


「(ダメダメ!今はホームシックになってる暇はないの!)」


これから何年いることになるか分からないが、もう日本のことはあまり考えないでおこう。
それにこの3人がいてくれるじゃない。

まだ痙攣している『喜』をおいて、はあっという間に粥を平らげた。










その夜4人は李に頼んで湯浴みに行き、また恒例となりつつある寝床争奪戦を開始した。
3人が死闘(今度はジャンケン)を繰り広げた結果。

今夜もやはり『哀』の勝利で終わったのだった。


































ともし火がユラユラと怪しく揺れて、とある部屋と男女を照らす。
もう事を終えたのか女の方は男の隣でぐっすりと眠って、
男…馬超はその女の隣で眉間に皺を寄せてはイラついていた。

抱いても抱いても満たされない。
今夜は逆に不快感を覚えるだけだった。

前まではこんなことはなかったのに。




「……(なんなんだ、この気持ち…)」





馬超はさっさと服を着るとその女の隣から離れた。
別に深い関係ではない、ただ遊ぶだけの女。
そんな女を抱けば抱くほど粋がって求めてくる。

好意の一欠けらも、愛の一滴も無いのに。


馬岱の言うとおり、これは止めたほうがいいかもしれない。
何故か胸のあたりが気持ち悪い。
早くこの部屋から出よう。


扉に手をかけて押すとキィッと木が軋んだ。
いつもなら簡単に開く扉が、今夜はやけに重く開けにくく感じた。
















アトガキ


の…のほほ…おほほ…(半壊
馬超がプレイボーイになったわ、姫…。
なんだか馬超が怪しいですね、なんだかヒロインと大接近しそうな予感です。
私としては趙雲をもっと出したいのですが、それはまだまだ後で。
今思ったのですが、朝・昼は背景白にしてたのですが…。
昼・夜の場合はどうしよう!!!汗
ということでこの背景に決定です。
一応この作品では一夫多妻を払いのけてます。
こんなの嫌だ!!と言う方は読まないほうがいいかもしれません;

2007.1.29(Mon)