その日の昼。
達は暫く部屋でゴロゴロしていたが、だんだんお腹が減ってきたので動きが鈍くなっていた。
特に『怒』はかなり鈍くなっていた。
「…腹減った。」
「ボクも。」
「……。」
『喜』はテンションが大幅に下がり、『哀』は喋る気力も無いらしい。
は諸葛亮に食事をとるところを聞けばよかったな…と後悔した。
自分のお腹がデリカシーもなくグルグルと鳴り出す。
「姫さんのお腹の音大きいなぁv」
「うるさいぞー、喜ー……」
「姫さんの腹もなー…」
「うるさな、怒めー……」
「………」
「………」
「………」
「………」
皆力尽きた。
4人のお腹の音が同時にグルグルと鳴った。
もう立ち上がる気力もない。
この4人、朝から何も食べていないのだ。
お腹が空きすぎて頭が痛くなってくる。
そんな時、トントン、と部屋の戸が鳴った。
「はい?」
「あの…もしよければ私と昼をご一緒しませんか?」
「もちろん!ちょっと待っててください!」
「姜維って奴か?」
「うん、みんなもお昼食べに行こ!」
「もっちろんvvvほら哀、しっかりして?」
「………。」
『哀』は目がどこかに行っている。
しょうがないなぁ、と『喜』は『哀』を負んぶした。
は『怒』を支えて、部屋の戸を開けた。
「お待たせしてすみません!」
「いえ…殿、そちらの方達は?」
「あ、使者です」
「そうなのですか?!」
「詳しいことはまた後日話しますね(お腹減って死にそう…)」
「わかりました。…私が代わりに支えましょうか?」
「……野郎に支えられたくねぇ…」
「す、すすみません!!!姜維さんは案内お願いします!」
「あはは、わかりました(逆に私が殿に支えられたい…って何を思ってるんだ伯約!)」
姜維はブンブンと頭を横に振ると、達の先頭を歩きだした。
その後を死人のように4人がついて行った。
「うぉいひ!ほほのひふほっへふへ!(おい喜!そこの肉とってくれ!)」
「わはっへふっへvはいほうほー♪(分かってるってvはいどうぞー♪)」
「…ハグッ……ングッ………バリバリバリ…。」
「(は、恥ずかしい!!なんだかすごく恥ずかしいっ!!!)」
「すごい食欲ですね…」
姜維に連れられ食堂のようなところにやってきた達。
最初、使者達は机の上にへばりついていたが昼ご飯が出来たとたんこれである。
今、『怒』と『喜』が鳥の丸焼きを5個も食べていた。
『哀』は静かなものの、その食べるスピードは兄達にも負けないくらい速かった。
料理人や女官達が厨房からクスクスと笑っているのが聞こえる。
はというと、野菜を炒めたものを食べていた。
だがこの3人の食べっぷりにかなり恥ずかしさを感じて、なかなか箸が進まなかった。
それを心配したのか、姜維が心配そうに尋ねてきた。
「殿、お口に合いませんか?」
「いえ!とても美味しいです!…そういえばあの時、姜維さんが来てくれてなかったら死んでましたよ。
私達、食事するところが分からなくて朝食も食べてなかったんです。」
「それは…私も気が利かなくてすみません。教えておけばよかったですね…」
「いえ!もうわかったんで大丈夫です。」
「また……ご一緒できますか?」
「え、お昼ですか?」
「できれば朝もどうかな…と思いまして…」
「もちろんいいですよ。ご一緒しましょう。」
「はいvでは明日の朝、迎えに行きますね!」
「お願いします(なら早く起きないとね…)」
ここの世界は皆起きるのが早いようなので、2度寝はできそうにもない。
ただ学校がないのでまだマシかな?とは思った。
その横で小さな幸せを掴んだ姜維が悦に浸りながら何回もお椀を転がしていた。
「よし、お腹一杯!」
「今日は私も使者の方々につられてよく食べました。」
「本当にお…お恥ずかしいです…」
「よく食べるということはいいことですよ、殿」
姜維はニッコリと微笑むと、はっと宴のことを思い出した。
「殿、今晩宴があることご存知ですよね?」
「はい…その、歓迎の宴ですよね?」
「どうかしましたか?」
「なんだか申し訳ないというかなんというか…」
「そんなことは思わないでくだされ。今晩は楽しんでください。
きっと劉備殿もそう思っていらっしゃると思います。」
「…そうですね、今日の宴楽しみにしてます。」
「宴が始まるころ迎えにいきます。」
「はい、わかりました。」
「姫さーーーん、外で遊ぼうよーーーーvvv」
2人で話し込んでいる間にあの3人は狼の姿に変身し、すぐそこにある庭に出て走り回っていた。
さっきまでの死人のような雰囲気はどこにいったのやら。
は姜維に「またあとで」と告げると3匹のところまで走って行った。
「…丞相、姜維はまた1つ成長しました。」
3匹に芝生にこかされたを見つめて微笑み、そっとその場から立ち去って行った。
「つかれた」
「姫さん、ごめんね?」
「なんで泥んこになるまで遊んじゃったのかな、私。」
「俺達が沢山転ばせたからだろ?」
「…面白かった。」
「はぁ…。」
椅子の上で溜息をつくと、泥の付いた服の端をつまみあげた。
あの後、は何回も芝生とキスをした。
どうもこの使者共は悪戯が大好きらしい。
がこけるたびに大笑いし、怒って追いかけたらまたこかせにくる。
計12回転び、計12回笑われた。
おかげで用意してもらった淡い緑の服がところどころ泥色に変わっていた。
「劉備さんに悪いよ…これ…」
「自動修復機能があればいいのにね〜♪」
「なんで喜達は服汚れないの?」
「…姫と同じ自動修復機能があるから。」
「そっか…こんな時こそあの青い服着ればよかったんじゃ…はぁ…。」
ふと窓の外を見れば夕日のオレンジがほんのり空を彩っていた。
だが今は冬。
つるべ落としのように日はすぐに落ちる。
「お風呂に入りたいよ…」
「用意しておりますよ?」
「そっかぁ…用意してあるんですか………って、えぇ?!」
バッと振り返るとこの部屋にを案内してくれた李潤演が立っていた。
一体どこから入ってきたのやら。
片手には大きめの布が4枚ほどかけてあった。
「私はいつもこの隣の部屋にいるので、湯浴みがしたいときは申してください。
…お風呂とは湯浴みのことですよね?」
「多分そうです…(隣にいたんだ!!)」
「入られますか?」
「入ります!」
「ボクも入るv」
「俺も。」
「…私も。」
「…李さん、みんな入ります(なんだかなぁ…)」
「わかりました。では、ご案内しますね。」
と、李は4人を浴場へと案内した。
はでかすぎる浴場を見て近所にあった銭湯を思い出した。
それよりこちらの方が規模はでかい。
「男性の方はあちらへ、女性はこちらで。」
「えー、ならボク女v」
「馬鹿喜!!変なこと言わないの!!」
「もし女の方だとしても…ついているものがあったならば…捻りちぎりますよ?」
「「ひっ!!!」」
ニッコリと天使のように微笑む李に『怒』と『喜』は危険を感じた。
『哀』はそのブラックさがうけたのか、クスクスと笑っている。
は「この人ならこの2人の悪戯癖をどうにかしてくれそうだ」と密かな期待を寄せていた。
2人が男性専用の方へ行くとと『哀』は沢山の女官に囲まれて一瞬にして服を剥がされた。
そしてそのまま沢山の女官に囲まれて浴槽へと入らされた。
流石の『哀』もその速さには少し驚いたようだ。
「湯加減はどうです?」
「あ、丁度いいです!(なんだか裸見られてるのってやだなぁ…)」
「お体洗わせてもらいます。」
「え!自分でやります!!」
「ふふふ、恥ずかしがらずにどうか任せてくださいv」
「(李さんなんだか怖いよ…)」
もし男性も同じことをされてるのなら、今頃あの2人は極楽な気分で風呂に入っているだろう。
と『哀』は大人しく体と髪を洗ってもらった。
「どうでしたか、湯浴みは?」
「は、恥ずかしかったです…」
「ふふふ、様は可愛らしいですねv」
「あははは…(李さんが言うと怖いんだけどなぁ…)」
またすごい勢いで風呂から上がり、にはあの青い服が着せられた。
『哀』は着ていた服を着るといって自分でさっさと着ていた。
女官がと『哀』の髪の毛をパタパタと布で拭いていると、
男性用の風呂から『怒』と『喜』が戻ってきた。
2人とも幸せ気分を味わったのか、顔がニマーーーッvっとトロけている。
きっとこちらと同じように女官に色々お世話してもらえたに違いない。
なんだかだらしないなぁ、と思いつつ窓から見える小さな星を見つめた。
「様、おめかしします?」
「あ、いえ…私あまりおめかしとか好きじゃないんで…そのままでいいです。」
「それは残念ですね…いつかおめかしさせてくださいますか?」
「もちろんです。…その、ありがとうございます。」
李はふふふ、と微笑むと髪を乾かしていた女官に「髪紐の用意を」と言って、
代わりにの髪に櫛を通した。
の髪は一応長い方だ。
おろしたままだと何かと邪魔になるだろう。
宴となると席を立ち移動することが多いだろうと思い、李はの髪を束ねることにしたのだ。
「姜維様みたいに高い位置で結いますね。」
「はい。(もし私にお姉ちゃんがいたらこんな感じかな?)」
心地よいリズムで櫛を通されて、は少しだけ眠くなった。
李はの髪を束ね終わると女官から青色の髪紐を受け取ってチャッチャと縛った。
そして庭に咲いていた山茶花の花をそっとちぎって、束ねた髪の根元に挿した。
「綺麗な色ですね」
「そうですね、よく似合ってます。この時期山茶花がとても綺麗に咲きますからね。」
「…姫、こっちは準備できた」
『哀』は長い髪を可愛く三つ編みにして貰い、後ろで『喜』がニコニコしながらこっちを見ていた。
の近くまで来るとクルッと後ろを向いて嬉しそうにまとめられた髪をに見せた。
「見て!!ボクも姫さん達と一緒!!」
「編みこみ似合うね!!喜も哀も可愛い!!」
「怒はねぇ、少し長い襟足を束ねたんだよ〜v」
後ろから『怒』もやってくると、少し恥ずかしそうに後ろを向いた。
少し長い襟足を細かい三つ編みにされている。
誰もが振り返り、「かっこいい!」と思うだろう。
「怒は男前だね。」
「そ、そうか?」
「かっこいいよ?」
「えー、ボクは可愛いだけなの??」
「はいはい、かっこいいよ喜も」
「何それー!適当にあしらうなー!!」
「わ、笑いながら怒らないでよ!」
ぎゃーぎゃーと騒いでいると、浴場の扉がコンコンと鳴った。
きっと姜維だろう、と思いは扉を開けた。
するとちょっと肩で息をしている姜維がそこにいた。
「お部屋の方に居なかったんで…女官からこちらと聞いて来ました。
…さぁ、もう行きますよ?実は殿が早めに武将達を集めてしまったんです。」
「え!」
「では使者の方も遅れず付いてきてください!」
「おう!」
「李さん、ありがとうございました!!」
「いえ…気をつけていってらっしゃいませv」
は姜維に手を握られて、早足で後をついていった。
姜維の手は少し大きくしっかりした手で、ほんのり暖かかった。
後ろでは『怒』と『喜』が「気安く姫さんに触るんじゃねぇよ」とブーイングをしていたが、
『哀』だけはそっと見守っていた。
5人は宴の会場である広間の入り口に立った。
綺麗に装飾されている大きな扉には思わず息を呑んだ。
日本ではこんな見事な扉には滅多に出会えない。
「カメラがあったらよかったのになぁ」と、この世界に懐中電灯を持ってきたことに後悔した。
姜維はというと自分から不意に手を握ってしまったことに内心照れたが、冷静を装っての手を離した。
まだつないでいたいと思う気持ちもそっと手放した。
「劉備殿や他の武将達が待ってます。どうぞ、お入りください。」
「は、はい!(そういえば馬超っていう人もいるのかな…)」
今日の朝に廊下で出会ったが、少々ムカッとするようなことを言われたのを思い出した。
そんな人とまた会いたくはない。
どうか居ませんように、と心で呟いてそっと扉を開けた。
そしてゆっくりと前に足を踏み入れた瞬間目が合ったのは、
会いたくないなと思っていた馬超だった。


アトガキ
宴…の手前!まできました。
すごく無駄に長いですが、お許しください。泣
どうやら姜維がだんだん積極的になってきてますね。
他もどんどん積極的になっていきます。
ちなみに李さんは24歳です。
ヒロインの姉貴的存在となる、はずです。
じ、次回こそ宴じゃ!!
2007.1.27(Sat)