「一体貴方達は何をやっていたのですか?」

「…その…」

「途中色々とありまして…」

「悪ぃな諸葛亮!ちょっくら道草しちまってよ!」



「…ほう。」






只今達は絶対零度の諸葛亮の部屋でお茶を啜っていた。
お茶は温かいはずなのに、氷が沢山入ってそうなくらい冷たく感じた。
ただ狼たちだけはのん気にの周りで寛いでいた。
こっちは冷や汗ダラダラだと言うのに…。

時々刺さる諸葛亮の視線が痛い。




「姫さん、お茶飲みたいv」

「あ、はいどうぞ。」

「あ、ずるいぞ喜!」

「怒にもあげるから…哀にもあげるからねv」

「…ありがとう。」




3匹に均等にお茶をあげていると、諸葛亮が張飛と姜維を部屋の外に出るよう言い渡していた。
そして2人が部屋から出るのを確認すると諸葛亮は棚からとても古そうな書簡を取り出してきた。
そして机の上に広げ、に見えやすいように書簡を動かす。



「(…これ漢文みたい…)」

「天狼の姫についての書です。読めますか?」

「いえ…読めません。(みんなが話してるのは日本語なのになぁ…)」

「では私が読みますね。」

「お願いします。」



なんで文字は日本語じゃないんだろ?とは思ったがあまり深く考えないようにした。
なんせ狼でさえ喋る世界だ。
これから何があろうとびっくりしないだろう。





「天狼の星に四日祈れ。力を欲した時こそ星天の洞窟より天狼の姫来る。

天狼の姫は使者を使い、億の力を持って術者を助けるだろう。

ただし、この召喚は術者の命に関わる。呼べば術者は短命となる。

姫は術者が生きている限り存在し続ける。術者が死すとき、それは姫が帰るときである。」






「…短命って…諸葛亮さん、まさか術者…ですか?」

「はい、術者です。」





諸葛亮は穏やかな表情で頷くとその古い書簡を丸めて、また元の棚へなおした。
そして戻ってくるとまた椅子に腰掛けた。



部屋が妙にしん、と静まり返る。
は自分の額に手を当てて床に座っている3匹を見た。





「(使者を使って億の力って…?それに諸葛亮さんが死んだら私は日本に帰れるの…?)」



考えれば考えるほど複雑な気持ちが混じる。


家に帰りたい。

諸葛亮を死なせたくない。

劉備やみんなの力になりたい。


だけど、やっぱり帰りたい。
それには術者である諸葛亮が死ななければならない。


どう考えても諸葛亮の死は避けることはできなかった。




「(もう頭が痛いや…)」


「そんなに悩むことはありません。私はもとより病弱ですから、そう長くはないでしょう。

殿が帰るまでそんなに年月は経たないはずです。」

「そんな…そんなこと言わないでください」


「私は殿が治める蜀に天下を統一させるため今日この時まで生きてきました。」

「…。」


「この乱世、人の血を見ずに争うことはできません。兵はおろか、民までもが血を流し戦うのです。

殿はこの無慈悲な乱世を一刻も早く終わらせたいと思っていらっしゃる…。」

「…だから天狼の姫、の力を借りたかったんですか?」


「はい、そうです。蜀の天下のためならこの命、惜しくはありません。」





諸葛亮はゆっくりと立ち上がっての近くまで来ると、静かに膝をついて深く礼をした。



「しょ、諸葛亮さん?!」

殿、どうかこの諸葛孔明の命運と共に生きてください。

      ――――…そして、どうかこの蜀に力を貸してください。」




「姫さん、もし承諾するなら額の印をじじいの手のひらに書け。」

「え?」

「書簡には書いてなかったけど…これが最終契約なんだよねv」

「…もしこの契約が成立しなければ、姫はすぐに帰れる。朝早く、怒がこのことを諸葛亮さんに言った。」

「そうだったの…。」


「さぁ、どうする?力を貸すか、自分のいたところに帰るか。」





問いかけてきた『怒』の声が一段と大きく聞こえた。
もし帰れば、諸葛亮が削った命を無駄にすることになる。
だからと言って、これを承諾すればいつ帰れるかわからない。



「(本当は帰りたいけど…)」



人の血が流れる時代が長引くのは悲しいだろう。
それにこれは何かの縁、人々が悲しみに暮れるのを見過ごすわけにはいかない。





「諸葛亮さん、手、出して?」

「承諾してくれるのですか?」

「はい!折角諸葛亮さんが命を削って呼んでくれたんです。それに私もこの国に惹かれたので。」



は指で『*』の形を諸葛亮の手のひらに書いた。
するとその印は青白く光ってパン!という渇いた音と共に消え去った。

諸葛亮は不思議そうに手を広げてみたり閉じたりしたが、どうやら異変はなかったようだ。
それを見てはパッと諸葛亮の手を握り、ニッコリと微笑んで握手を交わした。



「諸葛亮さん、これからよろしくお願いします!」

「…こちらこそ、よろしくお願いします。」




その様子を微笑んだような表情で『怒』『喜』『哀』が眺めていた。


































「そうか…、殿は我々に力を貸してくれると申したのか…」

「はい。丞相と殿から聞いて参りました。」

「なぁ…嬉しくねぇのか兄者?」

「…嬉しいが…やはり素直には喜べん。」




劉備はそう言って苦笑し、昼に近い空を窓から見上げた。
もうじき雪が降ってもおかしくないが、今日はカラリとした晴天だった。

蜀の天下のためとはいえ、子供を乱世に巻き込むことは自分の義に反している。
だがの力を借りたらすぐにこの乱世を終えることができるかもしれない。
折角が諸葛亮の頼みを承諾したのだ。
喜ばねばに不快を与えるかもしれない。

劉備はすう…と深呼吸すると張飛と姜維の方に向き直った。





「…しかし、それでは殿に申しわけけないな。空も雲ひとつない青空だ。

……翼徳!今夜は宴だ!歓迎の宴といこうではないか!」

「おう兄者!!こりゃ美味い酒持ってこねぇとな!」

「劉備殿、皆に知らせてきますね!」

「ああ、頼む!」



元気よく駆け出した姜維を微笑ましく見送ると劉備も張飛も宴のことを皆に伝えるため、
城中を歩き回った。
そして劉備は専属の女官に「殿のために湯浴みを用意しておいてくれ」と頼んだ。




























「ったーーー!!なんだか今日は緊張しっぱなしだぁ…」



諸葛亮の部屋から自分の部屋へと戻り、はすぐに寝台へ倒れ込んだ。
いつもより肩が重く感じる。
そんなに3匹はトトトっと駆け寄ると、トンっと寝台へ上がってきた。




「お疲れ様、姫さんvvv」

「…姫はいい人。」

「いい決断だったぞ。」

「ありがと3匹とも。」




よしよし、と3匹のフサフサした毛並みを順番に撫でていった。
すると『喜』がの膝に顎を乗せて楽しげに喋りだした。




「実はね姫さん、ボクら契約後は変化した状態で過ごすことになってるんだよv」

「え゛?!」

「今のこの姿はどっちかと言うと仮の姿だ。だから人型に"戻る"というのが正しいんだ。」

「そ、そうだったの?!でも哀は内緒にって…」

「それはただ単に哀が恥ずかしがりやだからだろ?」

「…あまり人前でたことないもの。」

「へぇ…。あ、でももう狼の姿にはならないの?」

「んや、自分の意思でなれるよvただ契約前の変化は星の許可と精神力がいるんだよ?

でも今は自由に戻れるんだv」

「なんだかすごいね、それ…(そ、そんな仕組みなのね…)」



が言い終わるや否や、3人は同時に変化してに抱きついてきた。
右に『怒』、左に『喜』、前から『哀』がひしっと抱きしめている。

3人とも美形なのでなんだかとても照れてしまい、
抱きつかれた勢いで宙に浮いてしまった手のやり場に困った。




「3人ともいきなりどうしたの?」


「なぁ姫さん、俺達ずっと傍にいるからな。」

「いつだって離れないから!」

「…だから姫も傍にいてね。」

「うん!もちろん!」

「ホント??」

「本当だよ。」

「離れたら承知しねぇぞ?」

「はいはい、わかってますよ。」

「…姫、好き。」

「て、照れるなぁ…」




いつも眉間に皺を寄せている『怒』が微笑んだ。
笑ったことが無かった『哀』が笑った。
『喜』はいつも笑ってるけど今はもっと他の微笑み。



はこの3人が居たらどんなことがあってもやっていけそうな、そんな気がしたのだった。
















アトガキ


諸葛亮さんを跪かせました。
なんだか諸葛亮版三顧の礼です。(一顧ですね笑)
使者達も変化があったようですが…?
そもそも使者は星の偉い人に命を預けているので死にません。
不死の代わりに、最初は狼の姿にさせられます。
姫が誰かと最終契約を交わせば、彼らは結構自由の身になれるんです。
使者達についてこれからもちょっとずつ紹介します。
さて、次回はついに宴です。
頑張って書きます、頑張って人物出します!

2007.1.27(Sat)