「女だらけの湯浴みっていいわよねぇ…」

「ねぇ〜…」












そう言ってるのは湯船で浮かんでいる尚香と小喬だけだった。
他、大喬、星彩、は苦笑しながら湯船に浸かっている。


湯浴みに付き添う女官はなく、ただ5人だけの湯浴み。
尚香と小喬の企みで、蜀の二人と仲良くなろう作戦の一環だと、大喬が話していた。

はというと初めて他国の人との湯浴みに緊張するよりも、時代を超えた湯浴みをしていることに驚きを隠せなかった。
まさか、過去の人達とお風呂に入るなんて、星を見ていた自分は想像もしなかっただろうに。





「(変な心境だなぁ…なんか)」





夢のようで、夢じゃない。

目の前で素っ裸で湯船に浮かぶ二人も現実なのだ。









、どうしたの?」

「え?」

「複雑な顔、してたわ。」

「え!?そ、そう?」

「小喬と尚香があんな格好で浮かんでるから…すみません…」

「ち、違うの大喬!なんかすごい人たちと湯浴みしてるんだなって思って!」







呉の孫策の妻、そして周瑜の妻、更には孫呉の姫君と湯浴みをしているのだ。
これもまた現実である。

そろそろ浮かぶのも飽きてきた尚香が、の目の前を陣取った。
そして小喬もその隣に座った。







「私たちだってそうよ?噂の天狼姫と湯浴みしてるんだもの!きっと他のみんなが羨ましがるわよ!」

「え、そんな…」

「そうそう!特に陸遜様なんかねぇ〜?」





「ゲホッ!?」






よりによってなんでそこ?!

焦って咽たの反応に、尚香と小喬が反応する。







「え、ちょっと何〜?もしかして脈ありなの?!」

「ち、違う!違うの!咽ただけ!」

「そうかなぁー…でも最近陸遜様、のことよく見てるよねぇー」

「そういえばそうね…」

「星彩まで!?」







にやりと笑う星彩は、焦るを見て楽しんでいる様子。







「でしょ?!まさか何かあったの?!告白されたとか!!」

「まさかっ!!!」

「どうなのかしら…でも、をよく見るのは陸遜殿だけではないわ」





「え?!そうなの?!」

「誰?!教えて教えてぇ!!」







星彩の発言に、尚香と小喬が食い付き、話題はまるで修学旅行の旅館のような状態。
懐かしい光景だが、今のには地獄さながらの光景だった。






「と、とにかく!それは皆の勘違いよ?!ね?!」

「そうかしら?」

「そ、そう!」

「ならは好きな人、いるの?」

「あ、それ気になるぅ〜v」







まだまだニヤニヤしている尚香と小喬。
なんとかこの話を終わらせようと、は違う話題を考えた。



と、その時。



浴場の外から複数の悲鳴が聞こえ、5人は少しだけ身体を強張らせ、さっと湯船に深く浸かった。








「なに…?また奇襲なの?!」

「わからない…。、私の後ろに。」







無理やり星彩に後ろに座らされたを囲むようにして小喬と大喬も横につく。

5人はしばらくその浴場の外に気を集中した。




だが、もう悲鳴以外の声はない。









「奇襲じゃないようだけど…」

「な、なんだったの?」

「わかりません…ですが、大事じゃないようですね」

「よかったぁ〜…また奇襲だったらどうしようかと思ったよぉ…」







ほっとしてブクブクっと湯船に泡をたたせる小喬。
すると、浴場の戸が開き、中から李潤演が顔を出し、深々と礼をした。







「湯浴みの途中に申し訳ございません…よからぬ輩を成敗しておりました」

「よからぬ輩?」

「はい。ですが、もう心配ありませんので。」

「ありがとう潤演さん!」

「いえ…ではこれにて」






もう一度深く礼をすると、潤演は静かに戸をしめた。

そのあとにもう一度だけ、悲鳴が聞こえたような気がした。











「よからぬ輩、ですって」

「まさかねー…」

























5人があははと苦笑しだしたその頃。

湯浴みの部屋の前で、きちんと起立させられた、蜀の4人と呉の3人。

その顔には恐怖の色しかない。







「私は女官という立場ではありますが…様、そして呉の姫君方をお守りする命がございます。」






にこりと笑う潤演に、慈悲という言葉はない。





「潤演殿、こ、これは私たちも一緒です!丞相から命を受けて…!」

「そうだ!全く卑猥な行為はしていないぞ?!」

「俺達だって周瑜提督に言われて来ただけだっての!」

「別に疚しい気持ちでここにいるわけではありません…」





上から姜維、馬超、凌統、陸遜が反論する。
残りの趙雲、馬岱、そして甘寧も云々と頭を縦に振った。

そもそも、趙雲なんかは、馬超が無理やりつれてきてここにいたりするのだ。
今頃ここにいなければ、自室で日記でも書いていたものを…。


そう後悔するも虚しく。







「では、お聞きしますが、何故、7人そろって戸に耳をぴったりとつけていたのです?」








7人の背中に冷や汗が流れた瞬間だった。

時を少しだけ遡ってみる。











先に警備していたのは蜀の面々だった。

4人で廊下をウロウロとしている時のこと。
大きな欠伸をした馬超がぽろっと言い出した、第一声。





『何を話してるんだろうな』


『さぁ…徒兄上、警備ですよ警備。』

『わ、わかっている!』

『私は自室に戻ってもいいと諸葛亮殿が言っていたのだが…』

『お前、暇だろう?それにちょっとは興味あるくせに。』

『…』

『ま、真面目に警備しましょう!怒られるのはもうこりごりです…』






あの光線で焦げたもんなぁ、と馬超が付けたして、馬岱と趙雲がどっと笑った。
そうやって笑っているときに、呉の面々が来た。





『へぇ、蜀の皆さんも護衛ってやつかい?』

『なんだ、タレ目か』

『な!』

『そ、そうですが…陸遜殿たちもですか?』

『はい。周瑜殿から直々に…』






周瑜と孫策と孫権から執拗なでに言われて来たのだ。
心配する3人は、まだまだ諸葛亮や劉備たちと話すことがあるというので、動けないのだとか。

が気になる陸遜にとって、これほど嬉しい命令はなかった。






『で!こん中にいるんだよなぁ、姫さん達はよぉ?』

『貴様!覗く気ならば、即斬る!』

『馬超、お前が言えたことじゃないだろう…』

『なんだ、あの剛勇錦馬超も覗こうとしてたのかい?』

『そんなわけないだろう!!!』

『そりゃどーだか』






凌統を引っ掴んで殴りかかろうとする馬超を必死に3人で止め、とにかく落ち着くよう陸遜と姜維がなだめた。

そして、しばらく沈黙が続く。





しかし、その沈黙も、湯浴み中の姫君たちの明るい笑い声によって破られてしまった。







『楽しんでいるようですね。』

『岱、俺はものすごく会話が気になる』

『馬超、まさかお前…』

『あんなに楽しそうな笑い声を聞くと気になるだろう?!』

『それもそうだよなぁ…俺ならこうするぜ!』







ぴたっと戸に耳を当てる甘寧。






『これなら見てねぇし、覗きでもねぇだろ。』

『おお!そうだな!』

『徒兄上…納得しないでください…』

『しかし、これはいい案だ!』






そう言ってぴたっと馬超も耳を当てる。






『今何話してるわけ?』

『あぁ?……告白がどうとか行ってるぜ?』

『?!』

『!』






それを聞いて戸にひっついたのは陸遜と姜維。
冷静を装い忘れ、二人はどこか必死な顔をしていた。

内心気になっている馬岱と趙雲も仕方なく、といった感じで戸に耳をよせ、凌統も同じように耳を戸に当てた。









『ならは好きな人、いるの?』

『あ、それ気になるぅ〜v』








核心をついた話題が7人の耳に入る。

そう、その次のの言葉が気になるのだ。






7人がごくり、と息をのんだ。



















『何を、なさっているので…?』
































と、このあたりで7人の悲鳴が聞こえてくるわけである。







きちんと起立させられた7人の前をつかつかと歩く潤演。

最後にカツっと足音を鳴らしてポツリと呟いた。















「次にこのようなことをしましたら、あるものを引きちぎってさしあげますので」




















『こいつは女官じゃダメだ、将軍格にあげたほうがいい』







初めてこの7人の意見が一致した瞬間であった。






















そして夜は無事、朝を迎えるのだった。
















アトガキ


ギャグにならなかったーーーーー滝汗
どうも、やっと更新しました笑
だんだんと文章がマンネリ化してきた今日この頃…。
どうにかしないと汗
女官でも、威厳があれば強いのです、きっと…!
潤演は諸葛亮並に強いと、私は思っています。

最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます^^
さて!もうじきあの3人が帰ってきますぞー!

2008.3.24(Mon)