「魏が動いたか。」

「はい…ですが、もうこの城にはいないようです」


「…そうか」









大広間の入り口。
もう事件の話は終わり、皆が引き上げていったころ。
陸遜と周瑜が深刻な表情で床の一点を見つめていた。


今日の事件の犯人はやはり魏の者であることがわかった。
矢の形、種類からして、魏の将兵が使う矢。


魏は動き出した。
ならば呉も着々と動かねばなるまい。


政略結婚というのに、尚香は初めての結婚に浮かれている。
孫策も心から祝福しているしまつだ。

これではあの諸葛亮に利用されてしまう。








「(我々には情報が少なすぎる…)」







未知なものに下手に手を出すことほど愚かなことはない。
まだ彼女の情報が必要だ。
一体どんな力を使うのかもわからないのに。


それを考えると、魏は何かしら特別な情報を手にしたに違いない。
まるで挑発するような攻撃を仕掛けてくるのだから。









「…周瑜殿、部屋に戻ってもいいでしょうか?」

「…?ああ、いいが…。」








一歩踏み出したかと思えば、陸遜はふと立ち止まって、独り言のように呟いた。








「今は蜀との同盟を有利に使いましょう。」

「…ああ、そうだな」









陸遜は周瑜に礼をして、人気の無い廊下を歩いて行った。



同盟を有利に、か。

周瑜はフッと苦笑すると、大広間の入り口に背をつけて、そこから見える蒼い空を見た。





















「諸葛亮、盗み聞きか?」

「…たまたま聞こえてきただけですよ」








大広間の扉の後ろから、諸葛亮がスッと現れた。

嫌な奴だ。
いつも何を考えているのかわからない。
まるで人の心を読むかのように、全てを運んでいく。

自分の行動も、諸葛亮の計算の内なのか。









「姫を別室に移したのはどうしてなのか、教えてくれないか?」

「まだ魏の刺客がいるかどうか、調べるためですよ。…彼女をやや危険な賭けにさらしてしまいましたが…」

「…そうか。我らも力を貸そうか?」

「それはありがたいことです。できれば彼女の護衛を誰かに…」








周瑜の壁は微笑しながら、その目は遥か遠くを見据えている。


陸遜が天狼姫に想いを寄せていることを知っていたのだろう。
自然と陸遜がを守りに行くのは目に見えている。

…もしも陸遜が呉よりも彼女をとってしまったら、の話だが。












暫く無言のまま、花の匂いが漂う廊下に佇んでいると、
ジンと足の裏に小さな振動が伝わった。

何事か?と顔を上げると、諸葛亮の隣にやや不機嫌そうな馬超が立っていた。









「諸葛亮殿言われたとおり実行しておいた。」

「ありがとうございます馬超殿」

「そちらは、周瑜殿か…」

「先ほどの傷、もう治療はすんだのか?」

「はい。」









また不機嫌そうな顔をして、諸葛亮に何かを渡すと諸葛亮も馬超に何かを渡した。
一体何を渡したのか…目の前でやりとりをされると気になってしょうがない。

それは何なのか聞こうとした瞬間、諸葛亮は周瑜にその何かを差し出した。









「彼が溜め込んでいた書簡の一部ですよ」







これが気になったのでしょう?と言ってサラリと中身を見せる。
汚い字が綴られ、とても読めるようなものではなかった。

諸葛亮が渡したものは、彼が溜め込んでいた書簡だったとか。
それが嘘かどうかはわからないが、別にこちらに害をもたらすものではないようだ。








「目の前で隠し事をされたら誰もが気になってしまうでしょう。」

「わかったのか」

「もちろんです。…馬超殿も隠してまで持ってこなくてよかったのですが…」







クスクスと笑い、空を見上げる。
周瑜もつられてさっきまで見ていた空を見た。


まだ肌寒い、早春の蒼い空。


ちらりと隣を見ると、涼しげな表情を浮かべて微笑んでいる諸葛亮が目に入る。








「(諸葛亮、お前だけは消さなければならない。)」










孫呉の未来、孫呉の天下のために。






















































「…まさか周瑜殿がいたとは…」







別に堂々と諸葛亮に渡してもよかったのだが、彼のプライドと言うものがゆるさなかった。
あんな適当な書簡を周瑜の前で堂々と諸葛亮に渡せるものか。
半分寝ながら、馬岱にたたき起こされつつ、書いたような…あの悲惨な書簡。

馬超は変な汗をかきつつ、部屋への廊下を歩いた。



何故昔溜め込んでいた書簡を今になって持ってこいと言ったのか、よくわからないが、
書簡を上手く渡すための布石だったのだろう。


書簡、というのは今馬超が片手に持っている書簡だ。







「まずは部屋に帰ってから見た方がいいだろうな」






きっと重要なことが書いてある気がする。
多分が関係しているはずだ。

いつもの曲がり角を曲がって自分の部屋の前を見ると、よく見る顔が複雑な顔をしながら部屋の前で屯していた。












「馬岱、何してるんだ?」

「あ…徒兄上…」

に何か用なのか?」

「それが…」








どんどん顔色が悪くなる馬岱。
大抵こういう態度をとる時は、悪いことが起こった時だ。








「(おいおい…!!)」







まさかと思い、勢いよく部屋の扉を開けるとの姿は無く。
質素な家具がそこにポツポツと置いてあるだけ。









「見張りも居たはずだが…?!」

「いえ、違うんです…」

「?」

「…殿、厠に行ったきり帰ってこないんです…」

「厠に篭っているという可能性は?」

「いえ…あまりにも帰りが遅いものですから、女官に頼んで城内の厠を全て調べてもらいました。

…ですが、どこにもいなくて…」


「…岱!探すぞ!」









今でさえ危険にさらされているというのに…アイツは…!




諸葛亮からの書簡は後で読もう。
馬超は懐に書簡を入れると、馬岱と共に廊下を走り出した。
















アトガキ


なんとも遅れてしまった更新でござる。
この文章ともう1つ、あったのですが…最終的にこっちの文章にしました。
ちょっと簡素すぎて内容が掴めにくいかもしれませんが汗
それにしても姫は何処へ行ったのでしょうね汗
もうそろそろ、使者達も帰ってきます。
陸遜も馬超も姜維も今がチャンスです…笑

では、これにて。

2007.7.16(Mon)