何者かの奇襲によって御前試合は中止となり、
を庇って肩に怪我を負った馬超はすぐさま医者の元へと連れていくよう指示された。
が、本人は「たいしたことはない」と言って医者の元に行くのを拒否してその指示に従おうとはせず。
ただただ「行かない」としか言わなかった。
しかし肩の傷は予想以上に深く、中々血が止まらなかった。
そのせいか、馬超の顔色は青ざめ血の気を失っていくばかり。
そんな馬超に諸葛亮が「死にますよ」と忠告(死の宣告にも似た)した。
それでも子供のように拒否する馬超の兜のふさを持って、は無理矢理医者のところへ向かったのだった。
「ぐぁああぁっ!!!!!」
そして今、馬超は医者による荒治療を受けている。
荒治療中の馬超の痛そうな叫び声を聞きながら、は部屋の外で早く無事に治療が終わるようにと願って待っていた。
「ぬぉっ!!!」
「(あの孟起さんでさえ叫びたくなるような治療なんだ…)」
時々聞こえる馬超の痛そうな叫び声。
こんなにも馬超を叫ばせる治療とは…。
医者がどんな治療をしているのか見てみたかったが、それ以上に恐ろしさの方が強く。
は大人しくその場で待つことにした。
今になってやっと馬超が医者に行くのを拒否した理由がわかった気がする。
「…それにしても…」
まさか矢が飛んでくるとは思わなかった。
しかもそれをあの馬超が止めにくるとは予想だにもしなかった。
あの時、陸遜と真剣勝負をしていたのによく止めに来れたものだ。
自分もちゃんと試合を見ていればこんなことにはならなかったかもしれないのに。
「自分の身さえ自分で守れないなんて…なんだかなぁ…」
ふう、と溜息をつくと壁に背をつけて座り込んだ。
これ以上皆に迷惑をかけたくないのに、どうしてこうもかけてしまうのか。
自分の気持ちとは裏腹に度重なる災難。
天狼姫ならなんとかしなさいよ、と嫌気がさしてくる。
あの使者の三人がいなくては何もできやしない。
「億の力なんて…私自身にはないじゃない…」
何もできないくせに城に居座って。
しまいには皆に守ってもらってばかり。
…諸葛亮が命を削ってまで呼び出した価値が自分にはあるのだろうか?
否。
「価値なんてないかも…」
「なんの価値だ?」
「なんのって………孟起さん?!」
びっくりした拍子に壁に頭をぶつけ、は顔を歪めて後頭部をおさえた。
「お、おい、そんなに驚くなよ。大丈夫か?」
「だ…大丈夫…。治療終わったんですか?」
「ああ、なんとかな」
馬超は少しだけ襟をめくり、グルリと巻かれた包帯のようなものを見せた。
あんなにも痛そうな声をあげていたので暴れていたのか…と思っていたが、結構処置は綺麗に仕上がっている。
治療の際に脱いだ鎧は矢が丁度肩の部分を貫通していたため、修復を兼ね護衛兵らが後から部屋に持ってくるらしい。
武人は大変だな…と馬超の肩を眺めていると、ペシッと額を叩かれた。
「いたぁ…もう!なんですか!」
「叩きたかったから叩いた。それよりも今からどうする?大広間に行くか?」
「行こうかなって思ってるんだけど…(叩きたかったからって…この派手兜め…)」
「……よし、俺の部屋に来い。」
「え。」
ピシリとの表情が固まる。
「いや、変な意味などないぞ?ただ来いと言ってるだけだ。」
「でも私も諸葛亮さん達の話に参加した方がいいんじゃ…」
「諸葛亮殿のことだ。すぐに話し合いは終わる。」
そう言うや否や、馬超はガシッとの腕を掴んで廊下に出た。
いつもの引きずり移動。
はもう慣れたので黙って引きずられている。
少し廊下を進んだところで、この事件に関与しているのだから一応話し合いに出た方がいいのでは?と聞くと、
あんな堅苦しい場所にいたくはないだろう?と頭を叩かれた。
後で諸葛亮に怒られそうだ…。
いつかの姜維みたく丸焦げになってしまうかもしれない。
暫く黙って引きずられていると、馬超の部屋に続く廊下に差し掛かった。
そこにいた女官達が黄色い声をあげて馬超に近付いて来る。
別に嫌いではないのだが、少しばかり嫌な感じの女官達だった。
「馬超様、お怪我の程は…?」
「大丈夫だ」
「まぁ、衣に血が…!」
「後で私どもが染み抜きをしますわ!」
我先にと馬超に攻め寄る女官達。
自分の存在は多分女官達には無く、蚊帳の外状態。
は聞いていても楽しくないなぁ、と思いつつも会話の続きを聞いた。
「馬超様、嶺禮が去ってしまって寂しくございませんか?」
「いや、別に」
「私どもが代わりを務めたいのですが…」
嶺禮…。
心臓のあたりがヒヤッとしたが、もう大丈夫だと落ちつかせて小さく深呼吸をした。
もういないのだから大丈夫。
なのに名前を聞いただけで怯えてしまうなんて、まるでハリーポ●ターの例のあの人のような存在だ。
まだ嶺禮の方が可愛い、とは思うが。
物思いにふけていたがいきなりの腕を掴んでいた馬超の手に力が入り、ガコンと強く引っ張られた。
「代わりはいらない。行くぞ。」
「いたたたたたた!」
「あら…」と女官の残念がる声。
その中をズルズルズルーっと無理矢理引きずられ、すれ違う女官達が哀れむ瞳でを見送った。
「…孟起さん、代わりの人いらないんですか?」
「ああ、いらない。」
部屋の前に着くと馬超はカタンと扉を開けて、を部屋に入れた。
は少し態度が変わった馬超を見上げ、黙って椅子に座る。
いきなりどうしたんだろう。
嶺禮の件について触れてはいけなかったのだろうか?
「(この件については…黙っておこうかな…)」
何か他に気の紛れるものはないか、探してみよう…。
ぐるりと回りを見渡してみたら、ふと馬超の机が目に入った。
あの緑の宝石の飾りは無い。
代わりに山積みになった書物が置いてある。
飾りはどこかにしまったのだろうか?
「おい」
「?」
「さっきの話なんだが…」
馬超はの目の前に椅子を持ってくると、それに座って派手な兜を脱いだ。
一度バサバサと頭を振って綺麗な銀色の髪を揺らす姿はどこか大きな犬…いや狼のようだ。
ぼーっと見つめているとコツンと兜の先で額を突かれた。
…その攻撃が予想以上に痛くて少し涙が。
「で。一体なんの価値が無いんだ?」
「へ?…あ、それは…」
自分の価値、だなんて言ったら確実に呆れられるだろう。
しかもここ最近馬超には自分の弱さを見せ付けているような気がする。
は適当に「懐中電灯のことです」と答えておいた。
電池のない懐中電灯。
…なんだか今の自分のようだ。
使者という電池がなければ自分はただのガラクタに過ぎない。
「あの変なものか。闇を照らす器具なんだろう?」
「そうなんですけど、多分もう使えませんよ。」
洞窟で結構使ってしまったし、もう切れそうだったし。
今は部屋のインテリアの一部として置いているだけ。
またそれも自分と同じだなと思った。
『天狼姫』という置物。
何も機能することはない。
ただそこに置かれるだけの飾り。
「どうした?」
「…。」
馬超の顔がひょこっと覗く。
やっぱりダメだ。
この目を見るとどうしても本音が言いたくなってしまう。
だが今日の矢のこともあったので、なるべくもう心配はかけたくない。
はさっと馬超の視線から逃れて窓の前に立った。
「?」
「…今は何も、聞かないでください」
「そうか。…とにかく椅子に座れ。俺は諸葛亮殿のところへ行ってくるから、一人で歩きまわるなよ?」
「はい」
今すごく自分が嫌な奴だなってちゃんとわかってる。
あれ以上馬超の目を見ていたらうっかり本音を漏らしてしまいそうで、心配させないような言い方は出来なかった。
何も聞いてほしくない、としか言えなかった。
もっと他の言い方だってあるのに。
これでは更に心配させるような言い草じゃないか。
が自己嫌悪に浸っていると、馬超がそっとの肩に手を置いた。
「あんまり眉間に皺を寄せるな。不細工になるぞ?」
「な!!」
意地悪そうに言うと、フッと口元だけで笑って馬超は部屋から出て行った。
そんなに眉間に皺が寄っていたのか…。
は窓際から離れて鏡を見に行った。
現代とは違う、少しかすんだ鏡。
その前に立つのが怖い。
今の自分を見るのが、なんだか怖い。
「鏡が怖くなるだなんて、初めてだよ…」
ここまで自分は弱かったのかな?
…情けない。
たかが鏡を見るだけ!とは思いきって鏡を見た。
その中に映ったのは、今までに見たことの無い。
ものすごく不安そうな自分だった。


アトガキ
はい、やっとの更新です!!!!(久しぶりです、みなさん!泣
この元となる文はもう五月初めには出来ていたのに、全く編集せず汗
申し訳ないっすorz
それにしてもまたまたまとまらない文章ですねv汗
もうヒロイン弱体化してます!汗
でもこれから、どんどん逞しくなってもらうつもりですからね^^
その分、自分も頑張らねば…orz
それではこれにて失礼!
2007.5.27(Sun)