初めて見る趙雲の戦う姿。
いつも朗らかな笑顔を浮かべているところしか見たことがなかったため、
今の真剣な表情の趙雲はにとってかなり新鮮だった。
「(すごい…映画みたい…)」
素早い攻撃を繰り出しては凌統を翻弄している様子は某香港映画のスターのようだ。
趙雲みたいなアクションスターがいたら色んな映画界から引っ張り凧になるだろう。
だが凌統の体術も負けてない。
趙雲の槍に押され体勢が崩れたと思いきや、軽い身のこなしで素早く体勢立て直し応戦するといった機敏な動きをして趙雲に苦戦をさせている。
そんな二人の攻防戦には感嘆し、椅子から落ちそうになるまで身を前に出して観戦していた。
「、危ないからちゃんと座っておくのだぞ?」
後ろから劉備がの肩を掴んでちゃんと椅子に座らせた。
いつの間にか観戦に集中しすぎたようだ。
隣に居た馬超が馬鹿にしたようにクスリと笑っていたが、それは無視しておこう。
「ご、ごめんなさい…」
「夢中になるのもわかるが、安全を第一に考えるんだぞ?」
「はい、わかりました(気をつけなくちゃ…)」
恥ずかしいなと思いつつ、もう一度椅子に座り直すと隣にいた尚香がツンとの頬に人差し指を突き付けた。
「、どう?」
「え?何が?」
「試合よ試合!初めて見た感想は?」
「す、すごくハラハラしちゃう…」
一応言っておくが、趙雲の矛先はちゃんと身が切れる刃が付いている。
少しでも掠れば切り傷になる。
そんな凶器をあんなに振り回して、二人が怪我してないかどうか心配だ。
「凌統なんかは怪我しても大丈夫だから心配ないわ。それよりも趙雲って人強いのね…凌統が押されてる…」
「(あれで押されてるんだ…)」
凌統の表情はいつもと変わらず不敵な笑みを浮かべているのに、どこが押されているのだろう。
は頭を捻りながら凌統と趙雲の鍔ぜり合いをじっと眺めた。
「アンタ、結構やるね」
「お前こそ」
趙雲と凌統は鍔ぜり合いを止めてお互いに間合いをとり、ジリッと足元を鳴らした。
「孫呉にこれほどまでの使い手がいたとは…惜しいな。」
「嬉しいこと言ってくれるけどなぁ…、次で勝負つけるぜ?」
「いいだろう、……来い!」
凌統が先制をとり趙雲の正面をとらえた。
それに気付いた趙雲は防御の体制にはいるが…。
凌統がそれよりも素早く間合いを詰め、不意をついて趙雲の背後へ回った。
反応しきれなかった趙雲は凌統に足場を崩される。
「くっ…!」
「趙雲さんよ、今回はもらったぜ?」
趙雲のように力と巧みな技を駆使する奴を持久戦に持ち込むのは、もう負けを認めたようなもの。
凌統の武は先制をかけて決着を決める速攻型。
持久戦になると段々と体力も落ちる。
特に趙雲のような厄介な攻撃を仕掛けてくる輩との戦は1番苦手とするのだが。
この趙雲と言う奴、ここ一番と言う攻撃の後に隙ができる。
そしてわずかだが、凌統の方が俊敏さが優れていた。
「(得意の速攻で片付けさせてもらおうかね)」
速さを活かして、凌統は一か八かと趙雲の背後に回ったのだ。
そして見事趙雲の死角をとらえ、足をひっかけて体勢を崩した。
後は武器を取り上げるのみ。
「趙雲さん!!頑張って!!」
「(あの声は…天狼の姫さん…?)」
別に見ようと思っていなかったのに。
こんな時に限って意識はそっちの方へ。
自分の名前を呼んで応援をしてくれなかったのが少しばかり残念だが、
子供のように無垢な笑顔を浮かべるから目が離せない。
それが凌統の命取りとなった。
「隙あり!!」
「!」
趙雲は槍を上手く使い体勢を立て直し、そのまま凌統に蹴りを繰り出して怯んだ隙に武器を取り上げた。
「そこまで!」
その瞬間劉備の声が響く。
「あーあ…無樣に負けたなぁ…」
「真剣勝負をしている最中に殿に見とれてもらっては困る」
「ならアンタに見とれろっての?」
「いや、それも困る」
「生憎そういう趣味はない」と苦笑した趙雲は、負けて脱力し床に座り込んだ凌統に手を差し延べた。
凌統はそれを掴むと「ありがとさん」と言って立ち上がり、趙雲から取り上げられた『波濤』を渡され自分の陣営へと戻った。
「おいおい凌統!お前手でも抜いたのか?!」
「うるさいなぁ、馬甘寧は…。」
「馬…っ!?」
「姫さんがどうしても気になっちゃってね…」
こめかみに青筋をたてて怒る甘寧を尻目に、凌統は陸遜にちらりと視線を移した。
恨めしそうに睨み付ける陸遜だったがすぐに視線を反らした。
そして双剣『飛燕』を手に持つ。
「次、私が行きますから」
「何?!次は俺が…」
「次はきっと馬超だぜ?アンタみたいなか弱い軍師さんじゃ怪我するっての」
蜀の陣営を見れば、馬超が席から立ち上がり挑発的な目をこちらに向けていた。
その途中で傍にいたの頭を撫でる。
沸々と沸き上がる嫉妬。
馬超は多分陸遜を挑発している。
まさか自分の気持ちが蜀の面々にバレたのでは?
殿が昨日のことを他にしゃべったのだろうか…?
「…それは…無いでしょう」
諸葛亮先生にばれてしまうのは仕方ないが、は他人に言いふらすような人じゃない。
「はぁ?陸遜お前ぇ何言ってやがる?」
「へぇ…受けてたつっての?」
「錦馬超といえど彼も同じ人間。引け劣りませんよ」
「あ?お前ら何言ってんだ?」
「「別に」」
二人が同時に言うと、甘寧は更に困惑して頭を抱えていた。
そんな甘寧を無視して陸遜は会場の中央へと歩き出した。
それを見て馬超も中央へとやってきた。
「馬超殿、ですね?」
「ああ。まさかお前が来るとは思っていなかったぞ」
「どうしても…貴方を叩きのめさなければ、と思いましてね。正々堂々戦いましょう」
「…いいだろう。容赦はしないぞ」
中央にいる2人から炎のようなオーラが渦巻いてるように見える。
そんな皆が緊迫している中、はこっそりと頬を朱に染めて中央から顔を背けていた。
回りには分からないように下を向いたりちらりと横を向いたり。
昨日の夜のことで、は陸遜を直視できないでいた。
さっきまでなんともなかったのに。
試合を前にした陸遜の真剣な表情を見ると昨日の陸遜の言葉がふと蘇ってくる。
心臓もトクントクンといつも以上に大きく鳴って、体全体に熱い血を送っているような、そんな感じ。
「(…どうしよう…なんだか苦しい…)」
よくわからない気持ちが頭の奥でぐるりと回っている気がする。
「では、始め!」
「(あ…)」
気が付けばもう試合は始まっていた。
劉備の合図で馬超と陸遜がお互いに間合いをあけて、攻撃を繰り出す機械を伺っている。
「(…うわ、孟起さんが真剣な顔してる…)」
日ごろ馬岱を苦しめてばかりなのに。
馬超のこんな表情を見るのは初めてだ。
いつもちょっかいばかりかけてきて「馬鹿」とか「間抜け」とか言って頭を叩いてくるから思わなかったけど、
槍を持ってこういう風に真剣になっている時はかっこいい。
こういう時だけだけども。
ちゃんとしてたらカッコいいのにな、と思っていると何かが髪の毛を掠めて床に落ちた。
「殿!!!」
「?!」
馬岱に呼ばれて前を見た時にはもうそれは自分の近くまで飛んで来ていた。
ギラギラと矢尻を光らせて、の額をとらえている。
よければいいのに避けれない。
そういえばドラマとか漫画では銃とかで撃たれるときスローモーションがかかっていた。
ああ、今ならわかる。
ゆっくりと流れる風景。
周りの人が止めに入ろうとして席を立つ。
でも到底間に合いそうにも、ない。
「(死んじゃう!)」
シンと静まり返る鍛錬場。
息が止まるような空間に、ポタリという音が静かに響く。
はいつまでも当らない矢の行方を知ろうと恐る恐る目を開いた。
最初に目に入ったのは大きな背中。
そして耳に入ってきた声は少し不機嫌そうな声。
「何ボヤッとしているんだお前は…」
「孟、起さん…?」
馬超の背後に目をやるとに当るはずだった矢が馬超の肩に刺さっているのが見え、
思わず「あ!」と小さく声をあげてしまった。
ドクドクと赤黒い血が馬超の腕を伝って石床に落ちる。
その落ちていく血を見てやっと馬超が自分の身代わりになってくれたのだと気付いた。
「矢が…」
「これくらい平気だ。それよりもどこから矢が飛んできたかわからなかったのか?」
「あ。」
少し馬超に見とれて分からなかった、なんて口が裂けても言いたくない。
どうしよう!とおろおろしていると横から馬岱が出てきた。
「徒兄上、あっちの木々の方から飛んできました。…ただ正確にはわかりませんが…」
「そうか…」
馬岱がそういうと今度は諸葛亮がの後ろから声を掛けた。
「…ひとまず城へ戻りましょう。馬超殿は医者へ、呉の方々には大広間に集まっていただきます。」
「我々を疑っているのか?」
「そうではありません、周瑜殿。これは避難です。孫呉は将兵はこのような無礼を起こさないと思うのですが…」
「…そうだな。よし、皆大広間に行こう。」
ぞろぞろと呉の面々が引き上げていく中、陸遜だけ馬岱の言った矢が飛んできた木々の方を見ていた。
「おい!どうした?」
「…いえ。なんでもありません、甘寧殿」
「天狼の姫さん狙った奴が憎いのはわかるが、今は大広間に行かないとね。」
「わかってます、凌統殿」
甘寧に背中を押されてしぶしぶと引き上げる中、やっぱり陸遜はそっちを向いたままだった。
まさかそんなはずはない。
…だが、どう見ても狙撃手は女だった。
でも何故?
「(何か、訳がありそうですね)」
このことを大広間で発言しよう。
きっとあの中で見ていたのは自分だけだ。
馬超に斬りかかろう、と思った時、横の方にちらりと見えてしまった犯人。
その犯人のせいで馬超との決着もつかぬまま終わってしまった。
しかもまで危険に晒して。
犯人が許せないのは山々だが、馬超よりも先に矢に気付いたくせにを守れなかった自分が一番許せなかった。
こんな時に嫉妬している場合ではないのに。
と何やら口論している馬超が羨ましくて憎かった。
そして、少し悲しかった。
「ふん、殺さなかったのか?」
「はい。あの馬鹿な姫にはまだまだ辛く痛い思いをさせたいものですから。…それとも早く殺すべきでしたか?」
「いや…今はあれでいい。まだ分からないことがあるのでな。」
「わかりましたわ。」
そう。
簡単には殺さない。
もっと、もっと。
もっともっともっと痛めつけてから。
顔色の悪い男と、美しい女はそっとその場を後にした。


アトガキ
わー…かなり久しぶりの更新ですわ!汗
なんだかだんだんややこしい文になっておりますね汗
ヒロイン、色々と迷ったりなんやりしてますが…どうなりますことやら。
何気に戦うシーンが書けないという事実に気付いて激ショック乱舞したい気分ですv
そして最後の方、黒幕…ばれそう!!!爆笑
誰が誰だかばれそう!!!!汗
…次はヒロインと馬超のみの話?になるやも。
たまには伯約を出したいんだ…!汗
2007.4.23(Mon)