馬超と趙雲、そして姜維はそれぞれ手合わせに使う槍を持って呆然と鍛錬場の入口から会場内を見ていた。

いつもなら武器が散乱している場所に椅子がズラリと並べられ、散乱していた武器はちゃんと隅の武器置場に片付けてあった。
しかも椅子の下の床には金糸で刺繍された布がひいてありまるで御前試合のような準備がされていた。

趙雲が計画したちょっとした手合わせが何故ここまで発展してしまったのだろうか…と言っても、
何故こうなったのか大体分かっている。









「…か」

殿でしょうね…」

「殿は殿を子供のように思っていらっしゃるからしょうがないさ」








劉備がに何かと甘いと言う噂は城では有名な話。

時々様子を見に行ったり、夜にはの部屋の周りを回って見張りを自らしているとか。
それに張飛や関羽にの話を結構な時間まで話し続けるというほど、誰もが認める親馬鹿っぷりだ。

そんな劉備がの願いを聞かない訳がない。

きっとも見るなら、と自分も皆も見れるようにと御前試合の形をとったのだろう。









「これじゃに呉との交流の場を与えるだけじゃないか…」

「そう言うな馬超。もうこうなってしまった以上、どうしようもないだろう?さ、呉に一泡吹かせてやろうじゃないか」








こんな素晴らしい場所を準備してもらって、武を奮うには持ってこいじゃないかと趙雲は姜維の肩をトンと叩き、
鍛錬場内へと入って行った。

残された馬超と姜維はお互いに顔を見合わせて苦笑すると趙雲の後に続いた。






















ところ変わって鍛錬場近く。

馬岱、劉備、、星彩の4人が鍛錬場へ向かっていた。
の浮かれようはやや酷く、足取りは軽く星彩と繋いだ手をグワングワンと振りながら鼻歌まで歌う始末。
流石の星彩と馬岱も苦笑せざるをえなかった。

ただ劉備はと言うとの笑顔を見てと同じように浮かれていた。








「本当に楽しみなのね、

「うん!初めて近くで見るんだもん!…できれば星彩の戦う姿見たいな…」

「いつか関平相手に鍛錬するから見に来る?」

「本当?!行く!行くよ!」


「星彩殿、少しは手加減してあげてくださいよ?」







馬岱は前に星彩と関平の手合わせを見たことがあった…があれほど威圧感と何か黒いものが渦巻く手合わせは見たことがなかった。
途中関平が武器を投げ出して膝をつく時、彼は地獄から逃れたような気分だったろうに…。


は「星彩の方が強いんですか」と言っていた。
もっと言えば彼女が強すぎるのだ。
やはりこの腕っ節の強さは父親譲りなのか。


あの手合わせを見てが衝撃を受けなければいいが…。
ちらりと楽しそうに微笑んでいるを見ていると隣から劉備が話しかけてきた。







「そういえば…馬岱、そなたは御前試合にはでないのか?」







折角いい武を持っているのに、と劉備が言った。
別に参加してもよかったが、少し面倒だったから…というのが本音だったりする。
後、の傍にいたいという願望もあったり…。




「あのような催しものは苦手なんですよ」



そう言って鍛錬場の入口へと足を踏み入れた。

























一方、呉の一行も鍛錬場へと足を運んでいた。
小喬と周瑜を先頭にワイワイと廊下を歩いている。
そんな騒がしい一行の1番後ろを歩いているのはに恋する軍師、陸伯言。

愛用している双剣の刃に映る自分を眺めては溜息をついていた。







「(殿、見に来てるんだろうか…)」






最近心にあるのはの存在のみで、当初の任務などとうの昔に忘れている。
いつかは自分の敵となるかもしれないのに、心のどこかで「そんなことは絶対に無い」と決め付けていた。

根拠は無いくせに。

現実味が無い考えはなるべくしたくはなかったが、今はどうしても現実味の無い考えが頭の中をグルグルと回っていた。



蜀と呉の友好関係がこのまま永遠と続く。
きっと両国は解りあえる。

絶対に平和な世が訪れる。



冷静に考えてみると、とても甘くて幼稚な考えだと思う。
一つの天下を三国が奪い合うのだから、戦を避けることなどできない。
この平穏な日々もいつかは戦乱の日々に変わっていくだろう。

なのにどうしても「このままでいられる」と思ってしまう。



…いや、それとも現実を見ない自分の願望の現われなのだろうか…。








「(私にこんな甘い考えを持たせてしまうのは殿、貴女だけですよ)」







多分、呂蒙に今の心の内を話せば苦笑されたりするだろうな、と甘寧の頭に刺さっている羽をじーっと見ながら嘲笑した。











「何甘寧見てニヤついてんのよ、陸遜?」



「し、尚香様……」

「さっきから見てたけど…甘寧がそんなに気になるの?」

「違います!!!!!」







この呉の姫ときたら…。

ふと前方のざわつきが無いな、と前を見ると皆から痛い視線が。









「…陸遜、お前やっぱりそんな趣味だったのかよ」

「人は見かけによらないってね」



「(…もう嫌だ)」








皆の誤解を解くために陸遜は一生分の精神力と体力を使ったような気がした。
御前試合に響かなかったらいいが……。



大体の誤解が解けた時、もう陸遜達は試合会場前だった。
尚香は「玄徳様とが待ってるから先に行ってるわね」とさっさと中に入ってしまった。

自分も早く中に入ろう、と入口に向かおうと一歩踏み出すと、前にずいっと周瑜が出て来て陸遜の道を塞いだ。
そして自分の後ろには凌統と甘寧が自分と同じくいきなり道を塞がれて「なんだ?」と言うような表情で周瑜を見ていた。





「三人共、これは決して忘れるな。今はまだ天狼の姫に危害を加えてはならない。もちろん蜀の将にもだ。」

「いや、将にもってのは難しいですよ。なんたって今から命懸けの手合わせだってのに」

「将については殺しさえしなければいい。致命傷は負わせるな。わかったか?」





渋々と凌統と甘寧が頷く。
陸遜も「はい」とだけ短く返事をしておいた。





周瑜が塞いでいた道が開き、陸遜は会場に入ると真っ先にと目があった。
今日も可愛らしい服を着て劉備と尚香の間にちょこんと座っている。

小さく微笑んでみるとも頬を少し赤くして微笑み返してくれた。
自分も少しだけ顔が熱くなった気がした。







コツン。



「あいた!」

「やっぱりあの姫さんが好きなわけだ。」

「いきなり頭をそんな物騒なもので叩かないでください」






ぐるりと後ろを向くと凌統の武器『波濤』がちらりと視界に入り、陸遜は軽く双剣でそれを振り払った。
キン、と金属のぶつかる音が耳元で響くと同時に凌統の笑い声も耳に入ってきた。







「怖い顔しないでほしいねぇ…」

「…うるさいですよ凌統殿」

「別に隠さなくてもいいんじゃないの?」

「別に隠してなんかいません。」

「俺はあの体力馬鹿な甘寧が好きなのかとばかり思ってたがねぇ…」

「それは勘違いですよ」






2人は用意された椅子に腰かけると、陸遜は無言を貫き、凌統は更に話を続けた。






「後悔しないようにしないと、後で泣くのはアンタだ」

「…」

「あの姫さん、なかなか口説き落とすのが難しそうだけどね…」

「何が言いたいんです?」

「娶ってしまえっていう話さ。」

「!」

「ま、親衛隊が強力だけどなんとかなるだろ」

「…。」








凌統はちらりと向こう側の椅子座っている馬超達を見て言った。

陸遜もそちらをちらりと見るとが少し膨れっ面になって、馬超や趙雲、劉備たちに囲まれているのが見えた。
自分もあの中に入れたら…と思っていると凌統がまた『波涛』で頭をごついてきた。








「いた!!!」

「あの人にいいように使われないようにね〜。どうやら色々と策を練ってるらしいぜ?」

「(確かに…)」

「さて…もうそろそろ始まるようだ」










会場の中央で劉備が立ってこちらを見ている。
もう蜀の方は先鋒が決まったようだ。

蜀の先鋒は趙雲。
彼の武は呉でも有名で、その武勇も高く評価されている。
こちらは誰が出るか、と話し合う前に凌統がさっさと前に出て行ってしまった。
先を越された甘寧は「このタレ目!先に行くなよ!」とキレてつっかかろうとしたが、周泰に無言で引き止められていた。

それを見てが笑う。
その隣で錦馬超も笑っていた。





「(宴の席で見なかったが…まさか殿が待っていたのは彼では…)」




じっとその2人の様子を見ていたが、なんだか空しくなるのでぱっと目線をそらした。
の隣に座れない自分が悔しい。
それに自分には見せない表情を馬超には見せている。


そう思うと今までになく心が苦しい。
こんな思いをしたのは初めてだ。








「(是非彼と…手合わせ願いたいですね…)」







きっと次に出てくるのが馬超だろう。
甘寧が飛び出す前に飛び出さねば…。

陸遜はキュッと双剣を握り締めるとまた目線をそらして凌統達がいる中央へ向けた。






中央では劉備が凌統と趙雲の間に入り、色々と説明をしている。
趙雲の自信満々な表情を見るところ、自分の武に相当自信があるようだ。

あの体術系の凌統の武がどこまで通用するか見物だ。







「趙雲、凌統殿、どちらかが武器を手放した時が負けとなる。よいな?」







観客達が見守る中、趙雲と凌統が頷く劉備に向かって頷いた。

緊張した空気が漂う。
その中で劉備がスッと右手をあげた。









「では、始め!」








開始直後、皆の耳にはキィンという金属のぶつかり合う甲高い音が響いた。
















アトガキ


久々の更新!そして今まで何を書いていたか分からないという…ねv笑(シナリオメモっとけって話です
ヒロインのちょっとしたわがままで御前試合です笑
ちなみに私の中の星彩は最強です。(酒も武術も笑
なんだか最近張飛さんが出てない…!汗(関親子も汗!
これからどんどこ出したいのだけどな…汗
さてさて、陸遜は馬超と対戦するようですね。
後少しで使者も帰ってくるので、2人とも、今のうちにヒロインをおそぶっ(殴
ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました^^v
内容で変なところ、合わないところがあれば申してくださいね。

2007.4.3(Tue)