つまらないもんだな。


蜀に来て2日が経つが…まだこれと言った刺激がない。
蜀の女官達から黄色い声は受けるものの…これでは呉とかわらない。

凌統は手を頭の後ろに組んで自分の部屋の近くにあった庭の杏の木の下に腰を降ろした。
甘寧と喧嘩するのも暇潰しになるが疲れるものは疲れる。

あと周瑜から天狼の使者の情報を聞き出せと言われているが、そんな簡単に聞き出せるもんじゃない。
大体真面目人間が集まるような蜀の輩が大切なことをウッカリ話すわけがない。
女官でさえ「わかりません」と口を揃えるばかりなのに。



「全く…蜀は従順な奴らばかりだねぇ…」



呉の女官共なら詰め寄ればすぐに吐き出すものを。

はぁ、と溜息をついているといつも耳障りで仕方がない音が耳に入った。





「凌統!」

「はぁ、…アンタかよ」

「あぁ?!俺じゃ悪いか?!」

「天狼のお姫さんならいいんだけどね」





杏の木の下にいる凌統にガンを飛ばす甘寧。
が、ガンを飛ばすのをすぐに止めてチリンチリンと鈴を鳴らしながら凌統のところまでくると、
ニマーッと笑って隣に腰を降ろした。





「気持ち悪いから笑うのやめろっての」

「笑わずにはいられねぇんだよ、これがよぉ!」

「はぁ?」

「実はな、今日の昼から蜀の奴らと手合わせできるんだ。滅多にない機会だからな…お前も参加するだろ?!」

「物騒だなアンタは…。んで、相手は?」

「趙雲と馬超と姜維だ。どうだ?お前見たところ暇そうじゃねえか。後な、陸遜も参加するぜ?」

「へぇ…珍しいな」

「孫策さんも参加したいって言うんだけどよ、一応病人だからな。んで!代わりにお前に参加してほしいわけだ!」





それに今後の戦にも役立つかもしれないだろ?とバシンと背中を叩かれる。


あー…そうかもね。
今親睦を深めてもいつかは対峙するんだっけ。


乱世とは皮肉なもんだね、と雲一つない空を見上げた。
せっかくお転婆な尚香が幸せを見つけたというのに。

…と言っても、この結婚も呉の天下のためなのだが。





「人生ってもんは儚いね」

「はぁ?」

「…手合わせ受けるぜ」

「お、おう?」





いきなり立ち上がる凌統の後を甘寧が「変な奴だなお前」と困惑した表情で追い掛けた。
































「駄目だ!」

「なんですか?!」

「槍が飛んで来てもいいのか?!」

「大丈夫…かもしれません!」

「やっぱり駄目だ!!」





その頃、食堂のど真ん中の机では馬超とによる壮絶な口論が繰り広げられていた。
何故口論になったかというと、今日の昼から開催される手合わせの場にを連れてい
かないと馬超が言い出したから。

は一度も馬超や趙雲、姜維の戦う姿を見たことが無かったのでどうしても見たかったのだが、
…馬超だけが観戦に納得しなかった。

趙雲や姜維は観戦に納得したのだが、内心馬超と同じく反対だった。
もしかしたら手合わせを装ってに危害を与えたるかもしれない。
それに折角と呉を引き離そうとしていたのに…。


本当は馬超のように「駄目だ」と言いたかったが、あまりにもキラキラと目を輝
かせて「観戦したい」と言ってくるものだから二人は反対しきれなかった。

ちなみに馬超もこのキラキラした瞳に見つめられ納得しかけたが、
やはりここは心を鬼にして観戦を否定。





「私、皆の戦うとこが見たいんです!どうしても見たいんです!」

「そんなもの身の安全を優先したらどうでもいいだろう!?それに見たいのなら諸葛亮殿の部屋から見ろ!」

「間近で見たいんです!」

「馬鹿かお前は!自ら危険な目に遇いに行きたいのか?!」

「…だって、遠くからじゃよくわからないんですよ」





諸葛亮の部屋から見ると対象までの距離が遠すぎてイマイチ迫力がない。
間近で見た方がきっとすごいに決まっている。

危険なのは分かっていても、こういうものは近くで観戦したいもの。

馬超を納得させるような言葉が見つからず、はついに馬超に頭を下げ始めた。






殿、そこまでしなくてもいいんですよ?」

「だって趙雲さん、孟起さん中々納得してくれないんですよ?」

「馬超殿も殿の身をあんじていらっしゃるんですよ…それに手合わせなら私達普段やりますし…」

「あの、姜維さん…厚かましいかもしれないですけど…ちょっぴり呉の方々の方も見たいんです…」

「孫呉の武など見なくていい」




ふん、とそっぽを向く馬超に「お子様孟起さん」と小声で言うと椅子から立ち上がった。

この馬超の様子では到底観戦させてくれそうにない。
我が儘だとは思うが、どうしても皆の戦う姿が見たい。




「何処へ行く気だ?」

「劉備さんのとこです。頼みに行ってきます。」

「な!?…卑怯な奴め!」





今思えば孟起さん達から許可をもらう必要はなかったんだよね…最初から劉備さんに頼めば早かったんだ。

善は急げ。

は勢いよく掴みかかろうとする馬超をひらりとかわすと、急いで劉備の部屋に向かった。

馬超はと言うとかわされたせいで前につんのめり、ガツンと兜を机にぶつけた。




「ってぇ…」

「馬超、見事にかわされたな」

「…うるさい」

殿は結構身のこなしが上手いですからね…」

「(そういえばそうだな…)」



いつか自分の部屋に入らせて着替えを手伝ってもらう時、ぼーっとしていたに向かって服を投げたことがあった。
流石に最初は避けなかったものの、次に投げた時は華麗に避けた。

いい反応はしてるとは思う。





「とにかく…あの様子だと観戦するでしょうね」





はぁ。


3人の溜息が同時に出る。
これでこの作戦は失敗だな。

しかし…やはり他の世界からきたからなのだろうか。
は変なところで頑固だなと3人はそれぞれ思うのだった。













劉備の元に向かったは運よく本人と廊下で出会った。
しかも尚香と一緒にいたものだから、ちょっぴりこちらが照れる。
いい夫婦になるといいなと思いながら、ずっと眺めていると尚香が気付き、
今回の手合わせの観戦について話し出した。






「ふうん…なら私と一緒に見ましょうよ!ね、玄徳様も一緒に、ね?」

「ふむ…ならば皆も集めて観戦しようじゃないか。呉の武と蜀の武、きっと素晴らしい武が見れるだろうな」

「ってことは…御前試合ですね?」

「なら私呉のみんなに言ってくるわ!、玄徳様と一緒にいてね?」

「あ、うん!」






尚香はタタタっと駆けていくと元気よく劉備に手を振った。
劉備もそれを笑顔で返していた。

こういう夫婦憧れちゃうな…。
下から見上げる劉備は本当に幸せそうな表情で、は自然と口元が緩んだ。

…このまま呉と蜀が仲よくありますように。


にこにこと微笑んでいると劉備もそれに気付いて微笑んでを見下ろした。





、馬超には私から言っておこう。こんな機会は滅多にないからちゃんと観戦しておくのだ」

「はい!後で皆を集めますね!」

「ああ、場所は鍛錬場、時は昼だ。」

「(楽しみだな…)」






一体どんな武器を使うんだろう?
色々と妄想をしているとぽんと赤い帽子が頭の中に浮かんだ。





『私だけを見てください』





ふと昨日の陸遜の言葉が浮かぶ。

男の人にこんなことを言われたのは初めてだった。
心臓がバクバクと鳴る。
あの時の陸遜の表情が頭から離れない。

まるで射抜かれるような感覚に陥った、すごく真剣な表情。
握られた手がとても熱かった。



「(どうしよう…なんだかまともに顔が見れないかも…)」





『私は、本気ですからね』




最後にはそっと頬に触れた陸遜の……。








「………(きゃー!恥ずかしいっ!)」

「どうした?」

「い、いえ!なんでもないんです!わ、私今からやっぱり皆に伝えてきます!」

「そ、そうか?1人では危険だと…」

「大丈夫です!では!」

「お、おい!?!」









タッと走り去るとは目的地も無く走り続けた。
劉備さんならきっと尚香と出会うから大丈夫だよね…。

これからどこに向かうこともなくただただ走り続けた。
















アトガキ


久しぶりの凌統&甘寧さんです。
それにしても馬様が段々過保護になってますね汗
もう私の中の馬さんはコメディアンにしか見えない…!汗
っと言うわけで、撃沈してきますorz

さてさて、どうやら御前試合になってしまったようですね。
苦手な描写(全てにおいてですが)が沢山あることでしょう。
頑張ってくれ、自分!汗

2007.3.16(Fri)