宴は初っ端から大盛り上りだった。
張飛と孫策主催の酒の飲み比べ大会が開催されたり、二喬が美しい舞を見せてくれたり、尚香が自慢の剣舞を披露したり。
滅多に笑わない諸葛亮や、いつも難しい顔をしている周瑜もこの時ばかりは表情を緩ませ、
お互いに警戒心を忘れて楽しい時間を過ごしていた。
ただ孫権は最初に行われた飲み比べに参加し酔い潰れてしまい、
今は周泰に看病されている。
実はも周泰と一緒になって孫権の看病をしている。
飲み比べ後の酒に酔って何を言っているのか分からない孫権を無言で支えていた周泰が、
あまりにも大変そうに見えたので堪らず自分の席を離れたのだ。
席を立つ時、星彩に「1人でも大丈夫?」と聞いたところ「大丈夫」とは言われたが…。
呉の人達があまり好ましくないような態度をとっていたので、
いざこざが起きないかどうか少し心配だった。
ちらりと星彩の様子を見てみると、ホストのようにからんでくる凌統を無視して黙々と酒を飲んでいた。
…どうやら大丈夫そうだ。
だが星彩の近くの席では関平が心配してそわそわしていた。
星彩に話しかける凌統が気に食わないらしい。
「(星彩に悪い虫が付いてほしくないんだな…)」
男らしく「星彩に手を出すな」って言えばいいのに。
はクスクスと苦笑すると孫権の頬に濡れた布をあてた。
それを無言で周泰が見守る。
「周泰さん、孫権さんはいつもこんな感じで酔ってしまうんですか?」
「…ああ。孫権様は酒に弱い…」
「なのに飲み比べに参加しちゃったんですか…」
「…ああ」
「明日はきっと二日酔いですよ」
「…ああ」
まるで魏延さんのような人だな…と思っていると孫権がまた何か呻きだした。
何て言っているのかわからないがなんとなく尚香のことを言っているようだ。
むにゃむにゃと段々言葉が崩れ、最終的には寝てしまったが…。
その瞬間周泰と目が合い「寝ちゃいました」と苦笑を漏らした。
周泰もわずかに苦笑を漏らす。
なんだかこの人と一緒にいると癒されるな、とは密かに思った。
すると視界の中に赤いものが入ってきた。
「あの…孫権様の容態はどうですか?」
「あ、陸遜さん!」
「少し心配だったので来てみましたが…寝ておられますね」
「あはは…明日はきっと辛いですよ」
また苦笑を漏らしていると、周泰がに「…もう戻っていい、あとは俺に任せろ」と言って、
を元の席に戻らせようとした。
さっきの和やかな表情とは打って変わって、少し強張った表情をしている。
もしかして陸遜が嫌いなのだろうか?
それとも自分の勘違いか…。
またいつか周泰とは話してみたい。
是非とも高い高いをしてもらいたいと思ったが…これは少し無理そうだ。
陸遜と星彩達のいる席に戻る途中、陸遜がにこっそりと呟いた。
「諸葛亮先生に頼んだところ、文通許可がおりました。」
「え!本当ですか?!(本当に聞きに行っちゃったんだ…)」
「早速書いたので渡しておきます」
陸遜は丁寧に折られた紙を懐から出してに渡した。
これまた丁寧で綺麗な字で何かが書いてある。
ただなんて書いてあるのかさっぱりだった。
早く文字が読めるようにならなければ…。
「他人には見せてはなりませんよ?私も見せないので。」
「あ、わかりました。お返事…その、遅くなってしまったらごめんなさい!」
「別にいいんですよ。それにしても殿と文通ができるなんて…こんなに嬉しい日はありません」
「私も文通なんて始めてなんで…ちょっとドキドキです」
「あはは、殿はとても可愛らしいですね」
「!!(は、恥ずかしいこと言わないで〜!)」
は顔が熱くなり、陸遜に顔を見られないように必死で両手で隠した。
きっと今顔が林檎くらいに真っ赤になっているに違いない。
クスクスと笑っている陸遜を置いてスタスタと早歩きで自分の席に座ると、
まだ杯に残っていた水を一気に飲み干した。
「、顔がすごく真っ赤よ」
「気のせいだよ、ね?」
「…ふふふ、何か言われたの?」
「い、言われてないよ!星彩!一緒に外に出ない?少し風にあたりたいな…なんて…」
「いいわ。私もあたりに行きたかった。…さ、行きましょう。」
と星彩は席を立つと広間から出た。
そして庭へと出れる階段に2人で腰を降ろすと、は「はぁ」と盛大な溜息をついた。
「…さっき私見ていたわ。呉の陸遜…とか言う軍師に何か言われてたわね?」
「……うん」
「なんて言われたの?」
「か…可愛らしいって…私そんなの言われたことないし…それに男の人と交流なかったし…」
「…貴女って本当に初心で可愛い人ね。陸遜殿は見る目があるわ」
「見る目なんてないよ…私なんてなんのとりえもないただの娘だもん…」
「そうかしら?貴女の笑顔は人を惹きつけるわ。…これは十分とりえでしょう?」
「……なんだか魔女みたいだね、私」
「まじょ?」
「えっとね…変な術を使ったりするおばあさん、かな?」
なんだそれは?みたいな顔をしている星彩に、「やっぱりなんでもないや」というと、
空に輝いている星を見た。
今頃使者の3人は何をしているだろう?
「(蜀の皆が居てくれてるけど、結構寂しいんだよ?)」
早く帰ってきてほしい。
それに火事のときのお礼を『怒』に言っていないし。
『哀』とも沢山遊んであげていない。
マイペースな『喜』の面白い話も早く聞きたい。
が2度目の溜息をつくと、星彩が「ねぇ」と声を掛けた。
「は好意を抱いてる人いないの?」
「え?!」
「姜維殿や趙雲殿とか馬岱殿とか…それに馬超殿とか」
「…みんな好きなんだけど…なんていうかな…家族愛みたいな感じなの」
「そうなの…(これで皆失恋したわね)」
「あー…、でも関羽さんは恋人にしたいかも!」
「え。」
「お髭が素敵だもん!」
「(何が好きの基準なのかしら…)」
やや呆れながらの関羽の髭のさわり心地についての講義を聞いていた。
どうやら『素敵なおじ様』が好きの基準らしい。
あの4人にはない渋さが求められるようだ。
暫く雑談をしていたが、夜風が段々寒くなってきたので広間の中に帰ることにした。
「そういえば…馬超殿の姿が見えなかったわね」
「うん…後で部屋に行ってみようかなって思ってるんだ」
「…そうね、行ってあげて(天然って怖いわ)」
「折角のお祝いの宴なのに…なんだかどこまでもだらしない人」
哀れ馬超殿。
星彩は初めて馬超を哀れむと、と一緒に広間の中へ入った。
するとと星彩は少し顔を赤くした尚香に捕まった。
「お帰りなさい!あのね、2人とも私達と一緒に踊りましょ?」
「え!!」
「…いいわ、踊りましょ。」
「星彩?!」
「やっぱりそうこなくっちゃね!」
尚香から詳しい話を聞くと、2人が居なくなったあと小喬や大喬が皆で踊りたいと言い出したらしい。
それに賛成した尚香が広間の入り口付近で待っていたと言う訳で。
は踊りなんて無理だ!と思ったが、もう遅く…。
半ば強制参加の二喬指導の踊りに参加せざるをえなくなってしまったのだった。
そんな女性陣の踊り稽古をぼーっと眺める馬岱に、姜維が心配して馬岱の肩を少し揺らした。
「馬岱殿…なんだか浮かない顔してますよ?」
「そうですか?…なんだか酔ったみたいですね」
「酒もそんなに入ってないようですが…」
「…。」
馬岱の杯にはまだ1杯目の酒がたんまりと残っていた。
酒がこんなに進まないのも久しぶりだ。
自分は結構酒豪なのにな…と苦笑したが、苦笑するのも疲れてきた。
先ほど馬超に言った言葉が自分の頭の中で響く。
「(…徒兄上の傷を抉ってしまったかもしれませんね…)」
だからこの宴にも参加していないのだろう。
…あれは少し言い過ぎたかもしれない。
「(後で謝りに行こう)」
きっと今苦悩しているに違いない。
馬岱は少しだけ酒を飲むと、必死に踊りの稽古を受けているを見つめた。
一生懸命踊りを踊っているを見ると、どこか小動物のようで愛らしい。
姜維も「殿は癒しですよね…」と言って頬を朱色に染めている。
きっと馬超のように、姜維もに好意を抱いていだろう。
…というよりも姜維の場合はわかりやすいが。
「(殿はどれだけ私達を翻弄するのか…)」
馬岱は浮かれた姜維を見て苦笑しながらまた酒を飲んだ。


アトガキ
またも孫権&周泰登場!
閑話的なものなので、微妙ですが(いつも微妙だけど
ヒロイン素敵なおじ様が好きなようです。
ちなみに私は張遼が…(殴
次は馬超とヒロインのみ!…になるはずです。(ぇ
2007.3.7(Wed)