きっと今ほど緊張したことはない。

大広間に集まった呉の人たちと蜀の将達(一部いないけど)。
ずっしりと押しかかったような威圧感。

そして全員からの視線。



は今、自己紹介のために席を立ち上がったのだがあまりにも緊張しすぎて、
最初の言葉が出てこない状態だった。

「はじめまして」の「は」の字が喉の奥でつっかえている。

変な汗がタラリと背中を走っていく。

右隣に座っている趙雲が心配そうに見てくるが、それまた緊張するもとであって。
なかなか自己紹介ができない。





「(ヤバいなぁ…これ…)」




そう思ってもなかなか出てこない、「はじめまして」の「は」の字。
大広間の空気が段々と重くなっていく中、劉備が1つゴホンと咳払いをした。








、座っていいぞ?私が代わりに紹介しよう。」

「そ、それは…」

「よいよい。ほら、座っておきなさい。」

「…はい(とっても情けなっ!)」






もうこんな時になんでかな、と泣きたくなりながらは椅子に座ると劉備が呉の面々に向かって紹介しだした。
左隣にいた馬超は泣きそうなの肩をポンと叩くと「気を落とすなよ」とボソリと呟いてくれた。
ただその顔は笑いたくてしょうがないような顔をしていたが。
趙雲はそんな馬超に「お前と言う奴は…」と呆れた顔をして溜息を送ってやった。

「(孟起さんが笑いたくなるのもわかるよ……)」

自分の自己紹介もろくにできなかったのだから。
紹介中の劉備の横顔がとても申し訳なくて見るのが辛かった。







劉備のの紹介が終わると、諸葛亮が機を見て食事開始の合図を出した。
女官達が一斉に料理を持ってきて机の上に並べていく。

はどんどん並んでいく美味しそうな料理を見ても、今は食べたくないと感じるだけだった。
料理に手をつけず、呉の方にいたポニーテールの男の人の物凄い食いっぷりを見ていると、
趙雲がさっとの皿に料理を盛った。





「あの趙雲さん…」

「気まずくて食欲がないかもしれませんが、せっかくの席です。…少しだけ食べておいた方がいいかと」

「…そうですよね」

「もしも食べ切れなければ私が食べますので」

「え?!大丈夫です!食べ切れますよ」




そう言って趙雲の盛ってくれた野菜を煮たようなものを口に入れるとニヘッとごまかし笑いをした。
胃の中では逆流がおきそうになっていたが、そこはなんとか我慢する。
用意されていた水を飲みながら料理を食べていると、今度は馬超が皿に何かを入れてきた。

それはオレンジ色のアレ。





「…。」

「…。」

「あの、人参…」

「食ってくれ」

「はっ?!」

「馬が好きでも、俺には無理だ」

「…(何それ!!)」





「しょうがない人だな…」と人参に箸をつける。
胃の逆流が気になるがはそれをパクッと口に入れた。

ちなみにも苦手だったりする。




「(まず…)」

「すまんな」




ニカーッと笑う馬超を睨みつけると、は自分の皿の上の料理とまた戦いだした。
趙雲も皿に盛ってくれたのはいいが…量が多い。
本当に食べきれるかどうかわからないが、とにかく今は夢中になって料理を食べ続けた。















「ねぇ、お姫様すごい食べっぷりね!」

「ええ…でもなんだか顔色が悪そうですが…」

「きっとこの雰囲気苦手なんだよ〜」

「多分そうよね…。なら私達が和ませましょうよ!」

「そうですね!それにお友達にもなりたいですし」

「それじゃ決まり〜!天狼のお姫様のところへ行ってみよ!」




尚香、大喬、小喬の3人はそれぞれの席を立つと、
ムシャムシャと食べ続けているのところへと向かった。

の近くまでくると、手前にいた趙雲が気付き必死になっているの肩を叩いた。
それに気付いたは急いで口に入っていたものを飲み込むと、さっと口の周りを趙雲がくれた布で拭いた。





「私に何か…?」

「あのね、私達貴女と友達になりたいの。少しお話ししない?」

「私と、ですか?」

「ええ!あ、私は尚香。そのまま尚香って呼んでちょうだい」

「私は大喬です。私も大喬で…」

「あたしが小喬ねvもちろん小喬って呼んでよね!」

「わ、わかりました…(元気な子達だなぁ…)」

「貴女の名前はよね?」

「はい。私も呼び捨てでいいですからね」

「わかったわvなら、よろしくね!」

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」





は美女3人と握手を交わすと、なんだか幸せ気分になった。
こんなにも美女に囲まれると女の自分でもなんだか照れてしまう。
3人に椅子が用意されると、を囲むようにして座った。

そしての正面に座っていた尚香が身を乗り出してに話かけた。






「ね!は何歳なの?」


「私は18歳ですよ」








その瞬間、ざわめいていた大広間がしんと静まりかえってしまった。
質問した尚香も驚いたような顔をしてを見る。





「え、18なの?」

「18…ですけど…」

「私てっきり15歳くらいかと…」

「えええぇ?!」

「私達より年上の方だったんですね!」

「あたしと同じくらいと思ってたのにぃ〜」

「あははは…(そんなに子供っぽかったのかな…)」





プチショックを受けていると、また広間にざわつきが戻ってきた。





「まぁ、皆歳も近いことだし!仲良くなれそうね!」

「そうですねv」

「んじゃさ!次はあたしから質問していい?!」

「あ、どうぞ」

「その髪型誰がやったの?!すごく可愛いから気になってたんだ〜v」

「ぶっ!!!!!!」




左隣にいた馬超が水を噴出しだした。
小喬達が怪訝な顔をして馬超から椅子を少しだけ遠ざける。
その光景があまりにも可笑しくては笑い転げそうになったが、笑いを堪えて小喬に言った。





「実はね、今水噴出した人が結んでくれたの」

「そうなの?!」

「意外ですね…」

「そこらの女官より上手いんじゃない?!」

「だってよ?よかったですね孟起さん」

「……ま、まぁな」






照れているのか、やや顔を赤くして鶏肉に齧り付いていた。
「きっと李さんから色々伝授されたんだろうな」と勝手に妄想を始めるだった。

その食事会はほとんど3人とのお話しで終わった。
途中孫策も入ってきたが尚香が「策兄さまはあっちに行ってて!」と言うと、しっしっ!と手で追い払った。
可愛そうなお兄さん…と思ったが、なんだか可愛い兄妹だなと微笑ましく眺めていた。









「さて、食事の済んだ方は女官に申してください。お部屋まで案内します」




諸葛亮がそう言うと、ぞろぞろと呉の面子が女官に連れられて大広間を出て行った。
尚香達も「またお話ししましょうね」と言って出て行った。

残ったのは蜀の面々のみ。









殿、気分はいかがですか?」

「大丈夫…ごめんなさい超雲さん、迷惑かけてしまって…」

「いえ、全然迷惑ではありませんよ。」





趙雲はそう言うと何かに気付いての口元に手を伸ばした。
なんだろうと見ていると、どうやら口元に米がついていたようで。
「米がついてました」と笑顔で取ってそれをパクリと食べてしまった。

笑顔で素敵なことをかましてくれた趙雲。
あまりにも衝撃が多きすぎてわなわな震える

そんな2人を楽しくなさそうに眺めるのが馬超で。
恋仲の予感だな!と微笑ましく見守る劉備と関羽と張飛だった。






「呉の方々は皆出て行きましたね。殿、この後は呉の姫との式の日取りを呉と共に話し合いますので」

「わかった。」

「劉備さん誰かと結婚するんですか?」

「ああ、先ほどのところにいた尚香殿だ。私があのような美しい姫を娶っていいものだろうか少し不安だがな。」




劉備は「ははは」と苦笑したが、すぐに顔をぽっと赤らめて照れていた。

そうだったんだ。
劉備さん結婚するんだ。

自分には知らされてなかったのが少し寂しかったが、おめでたい話だ。
は「絶対いい奥さんになりますよ!」とニッコリと笑って劉備に言った。







「それにしても…は18だったのだな…私はってっきりもっと下かと思っていたぞ?」

「え。」

「俺もそう思ってたぜ?兄者はどうだ?」

「うむ、拙者もそう思っていた…」

「餓鬼っぽいからな、お前」

「なっ!孟起さんに言われたくないです!」

「18ってったら、もうそろそろ嫁がねぇとな!」

「嫁ぐ!!!!?」

殿にはきっといい夫が見つかりますよ」

「そうですかね…?」

「私としては趙雲のような好青年でないと嫁には行かせないぞ?」






はははっと冗談をかます劉備を見て「俺は範囲外か」と苦笑する馬超。
趙雲も冷静さを繕って苦笑しているが、頬をほんのりピンクに染めて思いっきり照れていた。
馬超の傍にいたも「趙雲さんみたいな人が夫だったら幸せですよね」などと照れて言った。

それには流石の馬超もショックを受けた。





























「陸遜」

「はい、なんでしょうか?」




陸遜は部屋に入ろうとしたが周瑜に呼ばれ渋々傍まで行った。
すると少し大きめの長方形の箱が手渡される。
多分天狼の姫に渡す服や装飾品が入っているのだろう。






「実はさっきの食事の時に諸葛亮に許可をもらった」

「なんのですか?」

「天狼の姫と対面についてだ。それで君が代表で会ってもらう。」

「わかりました…が、場所は?」

「天狼の姫が君の部屋に来るらしいぞ?」

「え!!!?」

「部屋の中で2人きり…ただ、護衛が外で待機しているらしいがな。…くれぐれも変な気は起こさぬようにな」

「わ、わかりました。」




そう言いつつも、自分の理性が保てるかどうか多少不安だった。
なんせ部屋の中では2人っきりなのだから。

妙に高ぶる気持ちを抑えて、陸遜は周瑜と別れると自分の部屋に手渡された箱を運んだ。
そして机の上に静かに奥と「はぁ」と溜息をついて傍にあった寝台に倒れこんだ。





「(こちらから伺えないものの…)」




念願の『2人で沢山話をする』ということが叶った。

この箱をあげる前に何を話そうか?
はどんな表情を自分に見見せてくれるのだろうか?
またあの笑顔を見せてくれるだろうか?



「早く夕方になってくれたらいいのに…」




そう思うとなんだか心がくすぐったいような、そんな感じがしたのだった。
















アトガキ


無理やりな文だこと…汗
やっと女性人出せましたね。
…あとここのサイトの馬超は人参が嫌いということで。
きっとその日のご飯のオカズにでた人参を馬にやっているような気がして。
あと、趙雲がやっと出てきた…泣
どうしても趙雲と伯約さんと馬岱は同じような人物になってしまう…汗

次回は陸遜さんと2人っきりです(仮

2007.2.21(Wed)