「いや…本当に助かりました…あのままあの部屋にいたら死んでましたよ…」

「お前も大変な奴だな…」

「でも死ななくてよかったです」




3人はホッとしながら女官が入れてくれた茶を食堂で飲んでいた。
朝食はさっき済ませたのであとは呉の一行が城に着くのを待つだけだ。
ただそれまでまだ時間がある。

その間に姜維は医者に軽く手当をしてもらい、馬超はの髪結いに励んだ。
は馬超にされるがまま、じっと椅子に座って姜維の治療の様子を眺めている。
少し顔を傾けると、手の皮膚が少し焦げているのが見えた。
医者の消毒で顔をややしかめているところからして、ちょっと痛いのだろう。


それにしても諸葛亮は一体どんな罰をあたえたのか…。
火でも使ったのだろうか?

「火…」

その単語だけではブルブルと肩を震わせると、この件については考えないようにした。
すると後ろから馬超に櫛でコツンと叩かれた。







「頭を動かすな」

「…はい」

「今日は2つ団子にするぞ」

「孟起さんできるの?!」

「これでも団子系は十八番だ」

「へぇ…(意外だなぁ)」






ちょっと驚きながら馬超の手つきを鏡で見てると、手馴れたように櫛を使っての髪を2つに分けていた。

「(恋人か誰かの髪の毛を毎日触ってるのかな?)」

もしかして李さんかな?なんて考えている間に2つ団子が完成していた。
そして手に持っていた『哀』からもらった髪飾りを馬超が取り上げるとチャッと片方の団子の根元にさした。
すると馬超が少し唸る。





「何かあったんですか?」

「いや、片方しかないからどうもしっくりしない」

「そうですか?」

「今日はこれでいいか…今度髪飾りくらいは買ってやる」

「買ってやるって…いいです。私馬岱さんとお買い物する約束してるんでそのときに買います!」

「ほーう…金はあるのか?」

「…あ…」

「馬岱に買わせるのか?」

「……………」

「なら俺が買ってやる。今度お前らの後ろから付いていってやるぞ」

「…なんだかストーカーですよ、それ…」

「すとーかー?」

「なんでもないです。…あ、姜維さん治療終わりましたか?」





さらりと話をそらして姜維の元へ歩いていくと、朝からもう疲れ果てたというような表情で姜維が頷いた。
手には包帯のようなものが巻かれていて、それからは少し薬品の匂いがした。




「大変ですね、姜維さんは…」

「ははは…私がなくしてしまうのがいけないんです…。…それにしてもよく似合ってますね髪形…」

「孟起さんにこんな特技があったなんて驚きですよね?」

「そ、そうですね…(その前に2人が目の前で仲良くしているのが嫌だな…)」




それに今は馬超のことをなんと呼んだか?
「孟起」と字で呼んでいたではないか。
また更に仲良くなる2人に苛立ちを覚えたが、そこはグッと堪えて座っていた椅子から立った。

すると傍にいたがそっと姜維の手を握った。
驚いてを見るとにっこりと微笑んで「早く治るといいですね」と呟いてまたそっと手を離した。







「おいおい、朝からイチャイチャするなよ」

「ば、馬超殿だって!」

「まぁ…コイツとは一緒に寝たからな?」



「え!!!!!!!!!!?」



「あ、姜維さん、これは孟起さんが勝手に私の寝台で寝てただけの話ですよ?」

「何もされてませんか?!」

「もちろんです。全く…変なこと言わないでください」

「すまんすまん(からかいがいのある奴だな姜維は…)」

「良かった殿が無事で…」





ニヤリと笑う馬超を「何言い出すんですか貴方は…」とギロリと睨んだが、
馬超に反省の色は無く。
しまいにはニヤニヤと笑っての服を引っ張ると自分の方に寄せた。

…腹が立ってしょうがない。

ただが「孟起さん気持ち悪いよ?」と言ってくれたのが救いだったが。





暫く雑談していると城内が少しざわつき始めた。
食堂前の廊下を何人かが走っていく。
その中でちょっとした話し声が聞こえた。



「呉の方々がいらしたわ!」

「あの美周郎と噂される周瑜様が門のところで立ってるらしいわよ?」

「早く行って見てみないとね!」



こんな会話だった。
もう呉の一行が門のところまでやってきているらしい。
馬超は椅子から立ち上がるとと姜維に「門の近くまで行ってみるか?」と聞き、
2人は返事の代わりに頭を縦に振った。





3人が廊下を歩いて門の見えるところまでくると、劉備と諸葛亮が門の前で誰かと話しているのが見えた。
そのほかにも関羽や張飛もいる。
呉の方も何人かいるようだ。






「あの劉備と話しているのが呉の孫権だな。」

「そんけん?」

「あの碧眼の男だ」

「丞相と話しておられるのは先ほど女官達が言っていた周瑜殿ですね」

「(すごくカッコいい人だな…)」

「美周郎に惚れるなよ?一応妻がいるからな」

「ほ、惚れてないです!」

「確かあの方が奥方様ですよ?江東の花の二喬と言われてますね」

「わぁ…可愛い!!」





その後どんどん呉の一行を紹介してもらった。
中でも甘寧という人は上半身ほぼ裸だったので目の行き場に困ったが、その前に「寒いだろうな」と思った。
馬超は「どうせ馬鹿なんだろう」と言っていた。
この肌寒い季節にあんな格好をするのは確かに…馬鹿かもしれない。

そんな呉の一行の中にの興味をひく人がいた。
トレードマークの赤い帽子が人ごみからチラチラと見え隠れしている。





「あの子は女の子?男の子?」

「普通男だろう?…だが見かけない顔だな」

「呉の期待の軍師、陸遜殿ですよ。」

「期待されてるんですね…」

「姜維、お前の好敵手だな」

「ははは…そうかもしれませんね」

「(姜維さんのライバルなんだ…)」






3人は一通り見終わるとその廊下から立ち去って、城門のところに出てきた。
廊下からでは分からなかったが皆背が高い。
やや低めのは上を向かなければ見えなかったので、首が少し痛くなった。

それにしても沢山の人が来てるんだな…と思っていると、諸葛亮が白羽扇をはたはたと揺らしながらこちらにやってきた。




「あ、諸葛亮さん!」

「こちらに来ていたのですか…」

「はい。少し気になって…」

「そうですか。今丁度貴女の話をしていたところですよ」

「あ…」





諸葛亮の後ろから見えたのは美周郎と言われていた周瑜。
周瑜はこちらに向かって歩いてきていた。
その隣にあの帽子の男の子、陸遜も一緒になって来た。

の少し前に馬超と姜維が壁のように出てくる。





「諸葛亮、そちらが噂の…?」

「ええ、天狼の姫の殿です。」

「ほう…噂通り可愛らしい姫だな」

「か、可愛くないです!」





いきなりそんなことを言われたら恥ずかしいではないか。
しかもあまりにも緊張しすぎて最初の辺りを噛んでしまった。

そんなガチガチなの否定っぷりに周瑜と陸遜はクスクスと笑い出した。
馬超達も何気に肩を震わせてるところからすると、きっと笑っているのだろう。

「(何も皆して笑うことないよね…)」

と思っていると、陸遜がじっとこちらを見ているのに気がついた。
なんだか馬岱さんみたいな人だな…と思っているとニッコリと微笑みかけられた。
照れるなぁ、ともつられて微笑み返した。






「ここで立ち話もなんですから…大広間にて食事を用意しておりますよ。昼食をとりながら親睦を深めましょう。」

「そうか…そうしようか。では殿、後で話しでもしようではないか。」

「あ、はい!」

殿は馬超殿、趙雲殿を連れて大広間に来てください。姜維、貴方は馬岱殿と一緒に呉の方々の部屋を用意しておきなさい。」

「はい丞相!」




周瑜達は大量の女官と諸葛亮や劉備達に先導されて大広間へと向かった。
そのとき陸遜がタタタッと戻ってきてにコソッと何かを耳打ちすると、
また笑顔で先導された一行の中へと戻っていった。

ちょっと顔を赤らめたを見て堪らず馬超が聞いた。





「お前なんて言われたんだ?」

「えっとね…その…」

「顔が赤いですよ殿?」

「…そ、それは…」

「じれったい奴だな。ほら、さっさと吐け吐け!」






「今夜会いに行きますって…」




「は?!」

「なんと!!!」





馬超と姜維の頭の中には行ってはならない方向へと妄想が広がっているが、
はまた違う方向に進んでいるようで。

「そんないきなり言われても、初対面の人に話す話題なんてないですよね…」

と、1人頭を抱えていた。
他2人は違う点で頭を抱えたのだった。






































「お、陸遜。天狼の姫見たか?!」

「はい、甘寧殿。」

「噂通りの別嬪さんだったわけだけど…どう?興味あり?」

「…さ、どうですかね。」





陸遜は甘寧と凌統からの質問攻撃を防ぎながら大広間に向かっていた。
呉とは違ってどこか質素な廊下だが、なんだか居心地がいい気がする。
それにここにはキャーキャーと黄色い声をあげる取り巻きがそんなにいない。

このまま蜀にいたいと思ったが、やはりそういう訳にはいかないだろう。
つかの間の安息を楽しもうと考えていると、ポッとの顔が浮かんだ。



可愛らしい2つ団子でキラキラ光る髪飾りはまるで星空のよう。
ならばあの艶やかな黒髪は夜空の漆黒だろうか。

できるならこの手にとって触ってみたい。

「はぁ…」っと色づいた溜息を漏らすと、凌統がニヤリと笑って肘で小突いてきた。





「誤魔化してもバレバレだっつーの。」

「…」

「お前の好みは純粋な感じなのか!お前は腹黒いのにな!」

「うるさいですよ甘寧殿」

「多分あの姫さんのことだ。きっと敵はうじゃうじゃいるぜ?」

「そうかもしれませんね」

「ま、俺達も敵かもしれないけどねぇ」





そう言って凌統は前の団体に入ると、それに続いて甘寧も入っていった。

敵はうじゃうじゃいる。
先ほどの前に壁のように立っていた麒麟児と錦馬超はその類だ。
自分が耳打ちをしに行ったときに殺気交じりで睨みつけてきたのだから。

だがそんなことはどうでもいい。



今はと沢山話してみたい。
あの輝くような笑顔をもっと見ていたい。

善は急げと思い、今夜会いに行くとは言ったが部屋が分からないときた。



「(後で女官にでも聞いてみますか)」



きっと少し煽てればすぐに教えてくれるだろう。
陸遜はの笑顔を脳裏に浮かべながら長い廊下を歩いていった。
















アトガキ


出てきた出てきた…うふふふv(ぇ
陸遜出てきました!なんとか出せたぞ神様!
なんだか波乱の予感…。

次回は昼食時ですね。
女性人もじゃんじゃんだしていこうかと思ってます。
個人的には尚香が好きだぁ…v

2007.2.18(Sun)