星を見たかっただけなのに何故か1800年も昔に来てしまった、
18歳、恋人いない暦18年。

天狼の姫、というのはなんだか神的なものらしく、
周囲からの視線が痛い。
見るからに神…には程遠い格好だからだ。


「(パジャマだし、裸足だし、懐中電灯は持ってるし。姫、ではないよねぇ)」


そもそも元から姫ではない。
サラリーマンの父とパートする母の子である一般庶民だ。
更に妹と弟がいる一般的な長女だ。

期待していた諸葛亮たちには悪いが、この誤解は解かなければならない。
なんせこっちの姫と言うのは上品に決まっている。
もし自分が姫だったとしても、そんな期待を寄せられているのに思いっきり下品だったら申し訳ない。
何もすごいことができない自分は人違いである。

とにかく諸葛亮に本当のことを話そうとは決めた。




「諸葛亮さん、私は…その、天狼の姫ではないんですけど…。」

「そんなことはありませんよ。書の通りちゃんと祈祷して貴女を呼び出したのですから。」

「多分呼ぶ人間違えたんじゃないかと思いますが…。」

「なら自分の額を見てみなさい。天狼の証が刻んでありますから。」


「え゛」





急いで諸葛亮から鏡を借りると、バッと前髪を上げて鏡に映る額を見た。
『*』のような形の文字が額に付いている。
は一生懸命指で擦ってみたが、掠れることもとれることもなかった。



「(…肉じゃなくてよかった〜♪…ってそこじゃないでしょ私!!)」

「どうかしました?」

「あ、全然!!なんでもないです!!」

「自分が天狼の姫だということ、お分かりになられましたか?」

「…一応。」

「そうですか。そういえばお名前を聞いてませんでしたね。」

って言います。」



諸葛亮は不思議な響きの名前ですね、と一言言うと、
パンパンと手を叩いて周りに座っていた兵達の注目を集めた。


「これより天狼の姫、殿を城へと護衛しつつ案内します。さぁ、出発の準備を。」


兵達はさっと立ち上がりさっきまで広げていたテントをなおし始めた。
はというとまだ鏡を見て証を観察している。
自分が姫だということにどうしても納得いかないのだ。

そんな様子に溜息をついた諸葛亮は、から鏡を取り上げてさっと懐にしまった。



「あ…。」

殿、いい加減認めてはどうです?」

「だっていきなりのことだし、そんな上品じゃないし…それに…」

「…そうですねぇ……では間者として牢屋にでも行きますか?」

「え!!それはちょっと!!」

「ならば現実を受け入れなさい。」

「……はい。」

「貴女は蜀の運命を左右する存在なんですよ?」

「はぁ…(それもちょっと荷が重いんですけど…)」

「それでも嫌だと言うならばまた後で愚痴は聞きましょう。さ、私の弟子の馬に乗せてもらいなさい。」

「弟子?」




諸葛亮が羽扇で差したのは、少し背の高いポニーテールの男の子だった。
見るからに真面目そうでこちらにちょっこちょっこ歩いてきている。
人見知りなのか恥ずかしがりやなのかわからないが、歩いてる割には進んでおらず、
その様子があまりにも可笑しくては吹き出してしまった。


「ぶっ!!!」

「…姜維、そんな可笑しい歩き方では戦にもでれませんよ。」

「じょ、丞相!!」


顔を真っ赤にしながらの目の前に走ってくると、中国風の礼をした。


「姜伯約と申します!…その…お恥ずかしいところを見せてしまいすみません。」

「そんな謝ることではないと思いますよ?私こそ笑ってごめんなさい。」

「いえ!!私が不甲斐ないばかりに…」

「2人とも、早く馬に乗りなさい。置いていきますよ?」

「は、はい丞相!」

「(諸葛亮さんいつの間に馬に乗ったの?!)」



諸葛亮はちゃっかりと自分用の馬に乗って、羽扇をユラユラユラユラさせていた。
そういえば近所にもこんな人がいたかもしれない。



「(なんだか姑みたい)」

殿、しばしお待ちくだされ。」

「あ、はい」



姜維は急いで馬をひっぱってくると、の手をとってまた赤面しだした。
究極の恥ずかしがりやなんだろうか?
そこまで恥ずかしがられると少し心配になってくる。



「姜維さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫です!…あの、前に乗りますか?後ろに乗りますか?」

「その前に馬に乗ったこと無いんですけど…。」

「それなら前の方がいいかもしれませんね…後ろは落馬の恐れがありますから。」

「なら前に乗ります!!」



落馬なんてしたくないもん!と姜維に言って馬に乗せてもらった。
テレビでは分からなかったが、馬の高さは結構高い。
更に鬣が案外フサフサしていて触るとなんとも言えない幸福感がを包んだ。

初めての馬の感触に感動していると、後ろにサッと姜維が乗ってきた。



殿、……途中お体に触れたりしますが少し我慢していてくだされ。」

「はい。(そこまで照れられると可愛いんですけども…)」

「では行きますよ。」

「あぎゃ!!」





栗色の馬は姜維の合図と共に勢いよく走り出した。
あまりにも勢いがあったためは思いっきり奇声を発した。
その後ろで姜維がクスクスと笑っているのがわかる。



「そ、そんなに笑わないでください…」

「先ほどのお返しですよ?あはは。」

「(あははって…)」



一瞬持っている懐中電灯で叩いてやろうかと思ったが、そこは抑えて馬の振動に耐えた。
気を抜けばベチッと舌を噛みそうだ。

ふと前方の空を見れば星が沢山輝いていた。
ちょうど見えたのは現代で言う冬の大三角。
オリオン座と大犬座と子犬座によってできる有名な三角形。

1800年前もあったんだ、とは関心した。
ただお気に入りのシリウスが少し赤みがかっているようなきがする。



「(天狼星ってシリウスのことだよね…)」



元々天文が好きだったは、昔から天文についての本を読むことが多かった。
その中でもシリウスは大好きな星だったりする。

だが、その大好きなシリウスを見たいがためにこのような事態になったのだ。
ぶっちゃけこのシリウスのせいだ。




殿?」

「大変なことになっちゃったなぁ…。」




シリウスに向かって「コノヤローーー!!」と心の中で叫んでみたが、
シリウスは無言のままキラキラと輝いているだけだった。
















アトガキ


諸葛亮&伯約さん登場完了。
なんだか伯約さんへたれです笑
あと、冬の大三角ということでこの時期冬です。
なのにヒロインはパジャマで移動してますが…、
大丈夫なのかしら?汗
次回はいよいよ城につきます。

2007.1.21(San)