真っ暗な中にはポツンと立っていた。

足元も真っ暗で、自分が見えない。
四方八方見ても暗い闇、闇、闇。
本当にここに自分がいるのかわからなくなるほどだ。


暫くそこにじっとしていると、目の前に見たことのある扉が出てきた。
やや古ぼけたその扉。





「この扉は倉庫の…」



『憎い』





扉に触れようとした時、あの女の人が扉越しに冷たい声で言った。
その言葉に胸がズキンと痛む。



「またあなたなの?」




…私、恨まれるようなことした?

私はあなたに何をしたの?






今度こそ問いかけようと思い、急いで扉に手をかけると今度は簡単に扉が開いた。
だけど女の人はどこにもいない。

また真っ暗な闇がただ続いているだけだった。
するとまたあの女の人の声がすぐ傍で聞こえた。






『そこは寒いでしょう?』


「え?」


『そこは寒いのでしょう?』


「…また…」


『ほら、また暖かくして差し上げましょう』


「いや…止めて」


『天狼の姫ですもの。そう簡単には死なないでしょう?』







暗い闇からあの熱い熱気とパチパチと燃える音が聞こえてきた。
真っ暗だった周りがまた炎の海を作りだしてを囲んでいく。



「っ!!!?」


足元にものすごく熱いもの当る。
下をみると火が自分の足を焼け焦がしていってるではないか。

次第に炎が全身に回っていく。
炎はまるで蛇のように体を這って、皮膚を焦がしていった。



熱い。
息が出来ない。

死にたくない。





「やだ!!!いやだ!!!」



『素敵な炎ですわね、様?』

















「いやぁ!!!!!!!!!!!!!!」














バッとが起き上がるとツーっと頬を汗が走った。

震える自分の体を見ると、皮膚がちゃんとあり火傷はない。
あれはどうやら夢だったようだ。


「(嫌な夢見ちゃったな)」と、はぁはぁと肩で息をしながら辺りを見渡す。

目の前の壁にあった棚を見ると、よく分からない植物や不気味な箱が沢山置いてあった。
そして医薬品のようなツンとした匂いが漂ってくる。




「(保健室みたい…)」




なんだか懐かしいなと、寝台から降りようとすると隣にも人がいることに気が付いた。
は覗いてはいけないと思いつつも、ついついチラッと覗いてしまった。

その瞬間銀色が目に入る。
布団を深く被っているので顔はわからないが、この髪の色は『怒』っぽい。




「怒?」




と、そっと声を掛けてみるとその寝ている者がもぞもぞと動きだした。
『怒』にしては髪の毛の色少し明るいなぁ…と思っていると布団がゆっくりと動き出した。

そしてその人が布団から顔を出した瞬間、は固まった。





「よう。」


「馬超…さん」

「さんはいらんと言ったが?」




「朝から叫んで楽しいか?」と嫌味ったらしく言うと、馬超はふあぁと欠伸をしてまた横になった。
この人『怒』と同じ髪の色だったのね…と溜息をつき声を掛けたことに後悔した。

それに好きで叫んだわけじゃない。
あんな夢、楽しくもなんともない。

あの女の人の言葉を思い出してはぎゅっと拳を握った。






「大丈夫か?」

「え、何が?」

「どうせ怖い夢でも見たんだろ?」

「………全然」

「嘘下手だなお前」

「馬超…さんには関係ないでしょ。」






どうせまたからかわれるんでしょ?とそっぽを向くが、
グイッと両手で顔を挟まれて無理矢理正面を向かされた。

かなりの至近距離で、馬超の長い睫毛がくっきりと見える。
よく見れば見るほど『怒』に似ていた。





「そんなに見つめられるといくらお前でも恥ずかしいんだが?」

「あ!!ご、ごめんなさい!!…って、この手どけてくださいよ」

「ならそっぽを向くな」

「…はい」

「なら離す。」





そう言うと、パッと両手を離して寝台に座りなおした。
一体この人何がやりたいんだか…と少し呆れて視線を馬超から外そうとすると、
馬超の腕に白い布が巻かれていることに気が付いた。

こんな朝っぱらから怪我をしたのだろうか?




「それどうしたの?」

「これか?」

「鍛錬…とかで怪我したの?」

「……まぁ、そんなところだ」

「間抜けだなぁ…」

「お前言わせておけば…!」

「あいたたたたた!!頬っぺたつねるの禁止!!!」




ぐにっと両方の頬を引っ張られじたばたとするが馬超は止めることはなく、
意地悪そうに笑って更に力を入れるだけだった。
仕返しにこっちも引っ張ってやろうと思った時、部屋の扉がカチャっと開いた。




「…お邪魔だったかしら?」




「そ、そんなこふぉふぁ…(そ、そんなことは…)」

「お、星彩か」

「馬超殿…殿から手を離しなさい。」

「相変わらず冷たい奴だな。」





ちゃかす馬超を無視すると星彩はの傍に座った。
そして林檎と小刀を取り出すとスルスルと皮をむき始めた。
は星彩の美人さにややうっとりしている。




「一応言っておくが星彩はあの張飛殿の息女だぞ?」

「え?!張飛さんの?!」

「以後お見知りおきを…はい、殿。」

「あ、ありがとう…」




星彩が綺麗にむいた林檎を一欠けら貰うとシャリッと音を立てて齧りついた。
甘酸っぱい林檎の味が口の中に広がる。
馬超が「俺にはないんだろ、どうせ。」と不貞腐れていたので一応一欠けらほどあげた。

ただ星彩は「もったいないことを…」と毒づいていたが。






「あの、星彩さん…」

「星彩と呼んで下さい。」

「なら私のこともって呼んで下さい。友達感覚で喋ってくれたら嬉しいな…なんて…」

「…よろしいのですか?」

「もちろん!」

「よかった…私少しどきどきしていたの。あなたとても神々しいから」

「は?どう見てもただの娘だろ?」

「…馬超殿うるさいですが」

「(こ、怖いよ…星彩…)」

「でもこんなに明るい人だったのね。父もよくあなたの話をしていたわ」

「え、そうなんですか?」

「ええ。父があまりにも楽しそうに話してるものだから私もあなたと話したかった。」

「ちょ、ちょっと照れちゃうな…」






えへへと照れいると林檎第2弾が口元へとやってきた。
星彩はじっとを見つめて林檎を差し出している。

…これはいわゆる、「はい、あ〜んv」のシチュエーション。


となりで馬超がニヤニヤしながら見ている。
そんなににやけられると気持ち悪い。

とにかくコイツだけは無視しておこう。


がパクリと林檎に齧りつくと星彩がほんのりと笑顔を見せた。
「こんな美人な人が張飛さんの娘さんだなんて…」とちょっと失礼だと思いながら、
林檎をムシャムシャと食べる。
すると馬超がの齧っていた林檎を横からとって自分の口に運んだ。




「あーーーーーーー!!!!!!!私の林檎っ!!!!!!!!!」

「林檎くらいで怒鳴るなよ…」

「星彩が折角むいてくれたのに!!!」

「(この2人って仲がいいのかしら悪いのかしら…?)」




林檎をとられてガックリと項垂れていると勝ち誇ったような表情をして気取っている馬超を見て、
星彩は「はぁ…」と溜息をついた。
まるで子供の喧嘩を見ているようだ。

だが、あの馬超が今までに見たことのない笑顔で楽しそうにしている。
父の張飛は「あの2人は仲が悪い」と言っていたが、そういう風には見えない。
逆に恋仲に見えるくらい仲がいいように見える。

ただ、まだまだ恋仲にはなれそうにはないが。



「(だっては鈍感そうだもの)」






これからどうなるのか楽しみだわ、とちょっと微笑みながら2人の口喧嘩に耳を傾けた。






































「じじい、話ってなんだよ話って」

「じじいはやめなさい。私はまだ22歳です」

「じじいの歳なんてどうでもいいじゃんかぁ…ボクら早く姫さんとこいきたいんだけど?」

「…私も」

「……(もう何も言わない方がいいでしょう…)」




使者の3人はまだ目が覚めてないの傍にいたのだが途中諸葛亮の部屋に呼ばれた。
諸葛亮の雰囲気からして重要な話だろう。
ここは真剣になるべきなのだが、3人は早くのところへ行きたくてしょうがなかった。
だから急かすように諸葛亮をじじい呼ばわりしてはからかっている。




「もう話しませんよ?」

「悪かったって。…んで用は?」

「昨日の火災のことともう1つは魏と呉の動きについてです」

「魏と呉が動きだしたの??」

「…そろそろ戦?」

「いえ、なんだかこちらに間者を送っては殿についての情報を集めているようなんです。」

の素性を暴こうとしてんのか?」

「未知な方ですから…一応あなた達の情報も出回っているようです。」

「でも軍師さんよ、そういうのはもうお見通しだったんじゃねぇか?」

「ええ大体は…。ただ、問題は動きなんですよ。」




諸葛亮がぴらっと一枚の紙を3人に見えるように広げた。
その紙は呉から…周瑜からの手紙だった。
『怒』と『喜』が眉を寄せ、文を読み出す。





「『天狼の姫に一目会いたいのだが、どうだろうか?劉備殿と孫堅様のご息女尚香様の件もあるだろう。

私達に会わせてはくれないだろうか?…もちろん危害は加えない。』」

「『…そちらには近々いくことになろう。天狼の姫に呉の衣服を差しあげようと思っている。

不都合であれば我々が持って帰ろう。では、また。』…だってよ??」



「これのどこが問題なんだ?」

「あの周瑜のことです。そう簡単には帰らないでしょう…。危害を加えないとありますが、

殿が暗殺されても可笑しくはありません。きっと呉にとって邪魔な存在となりますからね。」


「…私達がいるから大丈夫」


「ですが、今回の火災についてはどうです?」

「…それは…」


「もちろん私が長い間あなた達を引き止めてしまったのもありますが、

時にこういう場面に出くわすかもしれません。」


「そっかぁ…もし今回の火事が間者の仕業となると大変だね??これから間者が増えるってことでしょ??

魏と呉から間者が一杯くるとこっちも警備が怠れないね〜」


「そうです、気を緩めることはできなくなります。…要は殿に危険が増すということです。

もしも殿の素性や能力などを知ったのなら特にです。」




周瑜からの手紙をたたむと諸葛亮は自分の机の上に置いた。
そしてもう1つの手紙を机の上から取り、また3人に見えるように広げた。
今度は魏からの手紙のようだ。
これを書いたのは魏の軍師司馬懿。

この手紙もまた『怒』と『喜』が読み上げた。







「『諸葛亮よ、自身の命を削ってまで呼び出すとは…血迷ったか?まぁいい。

その姫が星空に帰らぬよう目を離さぬようにするのだな。』」

「…これだけだねぇ。」

「星空に帰らぬようって…姫さんをさらうとかその辺か?」

「もしくは殺すか…。他国も色んな策を練ってくるでしょう。」

「…でも今蜀は呉と同盟を組んでる。」

「はい、しばらく呉は何も仕掛けてはこないでしょう。…魏が問題です。」

「あの司馬なんたらって奴も相当頭がきれるんだろ?」

「だから今一番警戒しないといけないのは魏です。昨日のような事件がまた起こるかもしれません。

殿から離れないようお願いします。…私も説教はほどほどにしますので」

「わかった。…じゃ、もう行っていいよな?」

「ええ。」

「ボクが一番のりするからねv」

「あ!!!喜!!!」

「……さよなら諸葛亮さん。」

「はい、殿によろしくお伝えください。」

「…わかった。」







『哀』は先に出て行った兄達の後ろを軽い足どりで追いかけていった。
その様子を見ていた諸葛亮は「哀殿が大人ですね」と1人呟くと、
魏と呉からの手紙をまとめて棚の上に置いた。



「(これからひと波…きそうですね)」





まだ何かが頭にひっかかる。
それが何なのかはわからないが今は頭の片隅によせておくことにした。
















アトガキ


星彩さん登場!
そしてなんだか馬超とヒロイン仲良くなってきてますね(早いな汗
まだまだ文章として成り立ってないなぁ…汗
えっと、もう他国は動き出してます。
尚香と劉備さんはまだ夫婦にはなっていません。
赤壁の戦いもまだです。
これからヒロインに戦闘してもらわなくては…。
次回で第一章が終わりますよv

2007.1.27(Sat)