「父上、雪が降ってきましたね!」

「もうこんな時期だったのだな…」





関羽とその養子、関平は鍛錬場の端に座って空から降ってくる雪を眺めていた。
この雪はやがて積もるだろう。



「稽古はここまでにしておこう。」

「はい!父上!…それにしても寒くなってきましたね…」

「そうだな…ならば早く切り上げよう。」



鍛錬をしていたため汗ばんでいた体がだんだん冷えてきて、関平の肩が少し震えた。
吐き出す息が白くなっては空に消えていった。



「風邪をひかぬうちに帰ろうか。」

「はい、父上!」



笑顔で答える関平に微笑みながら関羽は「行くぞ」と声をかけた。
そして関羽と関平は自分の武器を担いで城の中へと戻っていった。











そんな関親子の様子をは諸葛亮の部屋から見ていた。

諸葛亮の部屋は丁度鍛錬場が見える位置にあって、先ほどからは2人の稽古の様子を見ていたのだ。
あんな寒い中でよく動けるな、とはチラチラと降ってくる雪を眺めた。


「(関羽さんの養子ってあの子だったんだろうな)」


ここに来て関羽から聞いた養子はおそらく外にいた子だろう。
上から見ていた印象はとても好青年な感じだ。
ただ的に、関羽のような立派な髭が生えていてほしかったようだ。








「っていうよりも、まだ諸葛亮さんの説教終わらないのかな…」



外から部屋の中心に目を移すと使者の3人が諸葛亮から『食事について』説教を喰らっていた。
もうかれこれ30分以上は経っているだろう。
3人の顔にも疲労の色が浮かんでいる。

姜維はというと1人黙々と筆を動かしては書簡とにらみ合いをしていた。
一体何をやっているのかはわからないが邪魔をしてはいけないだろうとは思い、
1人で外を眺めて暇を潰していた。


はっきり言って、つまらない。


月英はというと今力を入れている発明に夢中になっているらしい。
お礼を言おうと行ったのに月英は不在。
夫である諸葛亮の説教(3人のみ)を聞くはめになるとは思わなかった。





「(もう少しでお昼かな…?)」





はぁ、と溜息をついてどんどん降ってくる雪を眺めた。
鍛錬場の近くにある木に薄っすらと雪が積もりはじめている。
そういえば昼から馬術を教えてくれると言っていたがこの雪でもやるのだろうか?



「あの人なんだかサボり癖っぽいからないかもね…」



無い方が嬉しいが今後馬に乗れないと困るだろう。
どうか嫌なことが起こりませんように…とどんどん降り積もっていく雪に願った。



















雪が一面を白い世界にしてきた頃、諸葛亮がまだ眉間に皺を寄せたままに尋ねてきた。
その顔にいつもの余裕の微笑みはない。



殿…今日はこの3人を借ります。この調子では昼も朝と同じことをされそうなので。」

「いいですけど…」

「昼からは馬超殿が馬術を教えるらしいですが、この雪でもやるんですかね?」

「わかりませんが一応部屋で待機しておこうかなって思ってます」

「そうですか。…それでは姜維と昼食をとってきてください。この3人は夜には帰しますので」

「そ、そんなぁー!」

「もう十分説教喰らっただろじじい!」

「…説教やだ」

「ちゃんと説教を聞いてないからですよ。では、姜維」

「はい丞相?」

殿を連れ昼食を。その後はまた書簡の整理を頼みますよ。」

「はい!…それでは行きましょう、殿」

「はい…(ごめんね3人とも!!)」

「姫さん〜!」






助けを求める『喜』の手を諸葛亮が叩き、と姜維の背中を押して部屋の外に出した。
そしてその後、ビィーーーーンという効果音と共に緑色の閃光が部屋から見えた…ような気がした。



「(どうか3人が無事で帰ってきますように…)」

「(丞相の攻撃で使者達が死にませんように…)」



追い出された2人は3人が無事であることを祈ってから食堂へと向かった。

食堂で2人で座っているとどこか寂しかったが、いつもよりほっとして食事が出来た。
あの使者達の食事に罪悪感を感じず、料理長達からの痛い視線もない。
は初めて安心して食事をしたような気がしたのだった。


日本の話をしながらの楽しい食事は終わり、は姜維に部屋へ送ってもらった。
途中の廊下で歩いていたがあまりにも寒くて吐く息が白くなっていた。
だんだんと手の先や足の先が悴んでくる。

今日の夜はもっと寒いだろうな…と思いながら手を擦って暖めていると、
姜維が「寒いのでしたら…」と、そっと手を握ってくれた。

ちょっと恋人みたいかも?と思ったが逆に恥ずかしくなってしまい、部屋まで2人は無言だった。
ちなみに姜維も顔を真っ赤にしていたが、必死にそらしてに見られまいと頑張っていた。






暫く無言で歩いていると自分の部屋が見えてきた。
つないでいた手はとても暖かかったがもう離さなければいけない。
「もうちょっとつないでおきたかったな」とは惜しみながら姜維の手を離した。
姜維も名残惜しそうにから手を離した。





「姜維さん、朝も昼もありがとうございました。沢山お話しできましたね。」

「はい!…殿の話はいつ聞いても楽しいものばかりで聞いてて飽きませんよ。」

「そうですか?…たまには姜維さんの話も聞かせてくださいね?」

「もちろんです!」

「あと手握ってくれてありがとうございました。なんだか恋人気分でした。」

「ぇ?!こ、こここここ…?!!」

「ちょっとドキドキしたけど、嬉しかったです」

「わ、私も嬉しかったです!…寒かったら私でよければ…」




「よ。いいところ悪いな。」


「あ。」

「(ば、馬超殿ーーーーーーーー!!!!!!)」







ひょい、と現れた男馬超により姜維の言葉は風に吹き消されてしまった。
ちょっと積極的になろうとしていたのに…。
ガックリと落ち込む姜維に対して馬超はポンポンと肩を叩くとの腕をガシッと掴んだ。




「馬超さん?(痛いんだけどな…)」

「ほら迎えに来てやったぞ。」

「馬超殿今日は雪ですが…それでも行うのですか?」

「当たり前だろう?それに今日いきなり乗らせるとは言ってないからな。」

「なら何をやるんです?」

「姜維には秘密だ」

「え?!」

「え、ちょっと馬超さん?!」

「ほら行くぞ!」

殿!」

「きゃ!!!」




馬超にズルズルと引きずられるを姜維は悲しそうに見送った。

それに構わず馬超はを引きずって歩いていく。
これからまた嫌な時間が始まるんだと思うと、胃がきりきりと痛み出した。

馬超は無言のまま引きずって行くと何かの部屋の前で止まった。





「ここで待っていろ。」

「ここは?」

「俺の部屋だ。」

「ふーん…」

「覗く気か?」

「違います!!」




ムキになるなよ、と言って笑うと馬超は部屋から深緑色の上着を持ってきた。
それをムスッとしているに着せて更に笑った。




「ククク、お前それ似合わんな。」

「…馬超さんが勝手に着せたんですけど。」

「すまんすまん。それならそう寒くないだろう?俺が愛用しているやつだ」

「え、なら馬超さんが着たほうが…」

「俺は西涼の生まれだから寒いのは平気だ。それにお前に風邪などひかれたら馬岱に殺されるからな」

「…そうなんですか(西涼って地名かな?)」

「ほら、こっちだ。今日は厩に行くぞ」

「厩?」




馬超は廊下から外につながる階段を降りると木で作られた大き目の小屋に歩いていった。
その後をは劉備からもらった靴で雪を踏みながらついていった。

小屋の中に入ると沢山の馬がつながれていた。
白い馬や茶色い馬、黒い馬…色んな馬がいる。

馬超は入り口にを残して近くにいた白い馬の頬を撫でた。




「これが俺の馬だ。…どうだ?お前より可愛いだろう?」

「私は元から可愛くないですよ!…でもとても綺麗な白…」

「その白は俺も気に入っている。」



ポンポンと馬の額を撫でると馬超は奥にあった餌箱から干草を取り出すとにドッサリと渡した。
おかげで少し口の中に干草が入った。



「まずは餌をやれ。馬にいきなり乗ってもいいがまずは馬の良さを知らないとな。」

「ケホケホッ(なんだか馬超さんいいこと言ってる…)」

「ほら絶影が待ってるぞ。」

「名前、絶影って言うんですか?」

「ああ。ほら、早くやれよ」

「(そんな急かさなくても…)」




が干草を餌用の木箱の中に入れると絶影は一度鼻をつけてからムシャムシャと食べだした。
あの打撲ジェットコースターは苦手だが、馬の世話は好きかもしれない。
美味しそうに干草を食べる絶影をじっと見ていると馬超がクククと喉で笑い出した。




「なんですか?」

「いや、意外と面白いなと思ってな。」

「あっそう。(何が面白いのかねぇ…)」

「馬、珍しいのか?」

「私の世界では馬に乗ることあまりないんで…」

「なら何に乗るんだ?」

「車っていう鉄で出来た乗り物なんだけど…多分想像できないと思います。」

「だろうな…。」




馬に乗るのは乗馬を楽しむ人くらいだろう。
詳しく車の説明をしようと思ったが、エンジンの仕組みなどわかるわけがない。
適当に「速く走る鉄の塊」と後で付け加えておいた。


暫く無言で絶影を見ていたがだんだん寒くなってクシャミが出だした。
馬超から上着を借りたがやっぱり少し寒い。
少し鼻を啜っていると馬超が上着を引っ張ってまたを引きずった。




「何?!ちょっと!!」

「ほら、藁の上に座ってろ。」

「?」

「気持ち暖かいぞ。」

「うわ!」



バサッと藁をかけられて藁まみれになった。
だが気持ち暖かい。
ふと馬超を見ると「ほら言ったとおりだろう?」といった表情でこちらを見ていた。
ちょっと腹が立ったが、もういいやと藁の上に寝転んだ。

その瞬間おばあちゃんの家で取れる田んぼの匂いがした。





「明日は沢山馬に触らせるからな。」

「はーい。」

「その上着はやる。次はそれ着てこいよ。」

「はいはい。」

「なんだかしんみりしてるが、どうかしたか?」

「なんだか懐かしい匂いだなって思って…小さい頃によく田んぼで遊んでたからなぁ…」




ゴロっと横を向いて藁の感触を楽しんでいると隣に馬超が腰を降ろしてきた。
は警戒して馬超から少し離れた。




「…なんだその距離は。」

「その…心の距離?」

「……お前なぁ…。」




呆れた、という顔で溜息をつくと馬超はそのままの距離で寝転んだ。
2人で寝転んでいるとなんだか居心地が悪かったが、なんだかちょっとは和んだ気がした。

馬のブルルル…という鼻息やコツコツと歩く音。
なんだか不思議な感覚だった。
きっと日本に帰ればこんなことはもうない。


それを思うと少し寂しく思った。








「おい。」

「なんですか?」

「俺のことは馬超と呼べ。さんはいらん。ついでに下手な敬語も止めろ。」

「なんでいきなりなんですか?(どうせ下手ですよーだ)」

「なんとなくだ。…ほら、敬語使うな」

「…。」

「なんとか言わないか?」

「なんとか。」

「…俺を馬鹿にしているだろう?」

「うん、してる。」

「いつか覚えてろよ。」

「覚えません。…それよりなんだか眠くなってきちゃった」






馬超を適当にあしらっていると欠伸が何回か出てしまった。
「女らしくないなお前は」と馬超が言ったが、どうでもいいと聞き流した。

ただ、なんでいきなり敬語をやめろとか『さん』とかいらないとか言うのだろうか。
和解作戦の1つかな?と考えているとだんだん眠気が襲ってきた。




「寝るのか?」

「寝るかも…」

「置いて帰るぞ?」

「大丈夫、もう道は覚えたから…」





そう言うとはそれっきり喋らなくなり、かわりにスースーと寝息を立てて眠ってしまった。
馬超は本当にこいつは女だろうか?と心配したが、その寝顔はどこか憎めなかった。
こうやってだまっていれば可愛いものを……。




「(…可愛くはないな。)」




苦笑すると馬超は自分もそこで眠ることにし、ゆっくりと瞼を閉じた。
藁の匂いとの花のような甘い匂いがする。

それはどこか、昔にもあったような気がする。



「懐かしい、か」





昔、いつも隣にいた愛しい存在。
懐かしい笑顔。

今その存在が隣に居たような気がした。
















アトガキ


書きたいことがまとまらないので、いつか修正入れそうだ…汗
伯約さん、頑張ってますがどうも上手くいってないようですね。笑
馬超によりがちなのは管理人の趣味と偏見と愛です。(愛?!汗
なんとなくおわかりかもしれませんが、最終的な相手は馬ー殿になります。
個人的には槍族好きなのですが…ここは馬ー殿に頑張っていただきます。

2007.2.4(Sun)