「知ってるかい、絳攸?」

「…何をだ…」

「最近府庫に美少年が現れるって噂を、ね」







もうすぐ春を迎える外の景色を気怠そうに眺める、籃楸瑛。
その気怠そうな態度をとる楸瑛を睨み付けているのが李絳攸。

武官文官として才溢れる二人だが…どこにいるかも分からない神出鬼没な昏君、劉輝のせいで二人とも暇が有り余っていた。
楸瑛は主上の警護が役目なのだが、その肝心な主上がいない。

…だが最近はとある場所によく出没するということを知ったため、何かあればそこに行けばいいと思っている。
このことを絳攸が知っている…わけがない。








「ああ…邵可様が連れてきたという者だろう?…それがどうかしたのか?」

「その少年を見たことは?」

「まだないな。」








ほらね。

あの少年を見ていないのならば主上にも会えていない。
…いや、絳攸の場合は府庫に行くまでが難しいのだが…そこは伏せておこう。

そこらにある本を手当たり次第にとってパラパラとめくってみるが、どれも暇を潰せそうな内容ではなかった。
流石の絳攸も何度も同じ本を読んだのだろう、「そこら辺の本は読み飽きた」と言って溜息をついていた。








「つまらないねぇ」

「無駄口を叩くな!」

「はいはい」

「…」

「…」










「「はぁ…」」


「あの、すみません」









2人の溜息の後に続いた美しい声。
それにいち早く気付いたのはやはり楸瑛だった。

優雅に椅子から立ち上がると、これまた優雅な足どりでその声のした方へ歩いて行った。







「あの常春頭め…」






あの声が男だったら全く反応を示さないくせに、女となれば尻尾を振る犬のような反応を示す。
女とつるむのがそんなに楽しいのか?
何かあればすぐ泣くし、考えてることはよく分からないし…。







「絳攸、彼が噂の美少年さ」

「は?」

「どうも、李…絳攸さまでしたっけ?」







本棚と本棚の間の通路を通ってやってきたのは女ではなく、男。
楸瑛が飛んでいったから、てっきり女かと思っていたが。







「あ、あぁ…(美少年、と言われるだけあるか…)」

「邵可様から挨拶がてらにこれをと。」







少年が机の上に置いたのは、蒸篭に入った饅頭が2つ。







「最近府庫でお手伝いしてます、です。以後お見知りおきを。」







ちょこんとお辞儀をする。
そのちょっとした動作まで美しい。

これは本物の美少年だ、と苦笑すると、黙ってその様子を見ていた楸瑛が絳攸の目の前の椅子にを座らせた。
そしてその横にちゃっかりと椅子を持ってきて座った。







「彼が今噂の府庫の美少年さ。いや…女性かと思ったよ。」

「ははは……そうですか……」

「私は藍楸瑛、以後よろしく」







彼の顔が引きつるのを見て、絳攸はもう腹を抱えて笑い転げたかった。
ざまぁみろ、思いっきりひいてるじゃないか。

そりゃ多少女っぽいが、男は男だ。







「絳攸様、楸瑛様ですね…あ、お饅頭どうぞ!これ邵可様の娘さんが作ってくれたんですよ!」







本当に美味しいんですよ、と微笑む。
邵可様が持ってくる菓子は以前食べたことある。

そのときはゴマ団子だったか。






「じゃ、いただこうか絳攸」

「ああ」






ふんわりとしている饅頭を掴みあげると、ぱくりと一口齧った。
甘すぎない、丁度いい甘さ。

二口目に行こうとすると、目の前に座っているの物欲しそうな顔が見えた。
その整った唇の横からヨダレが出そうな勢いだが…。








「半分にしよう。…ほら」

「え、あ…絳攸様?」

「食べたかったんじゃないのか?」

「ま、まぁ…」


「こういう時はありがたく貰っておくべきだよ、?」

「はい…んじゃ貰っときます」








頂きます!とものすごい速さで食べだす
男らしいというかなんというか…見た目は女っぽいのに、中身は絶対男だ。


そして食べ終えたは空になった蒸篭を片手に、椅子から立ちあがって楸瑛と絳攸にお辞儀をした。







「それでは私はこれにて失礼します」

「ああ、またおいで。君なら大歓迎さ」

「暇な時にでも顔を見せるといい」

「はい!あと絳攸様、お饅頭半分くれてありがとうございました!」

「こ、今度は自分のも持ってくるんだぞ!」

「はい、そうします。」







お邪魔しましたー、と一礼するとはさっさと帰ってしまった。



素っ気無いの背中。
ちょっと言葉遣いが曖昧だが、嫌な気は全くしない。

美少年と騒がれても気にしないあの態度。
冷静でどこか面白い、今までに見ない種類の人間。

この隣で「まだここに居たってよかったのにねぇ?」と言い出す馬鹿とは大違いだ。








「いい子だったろう?」

「ああ、そうだな。」








心外だが、彼とはまた会って話したいと思う。








「惚れたかい?」

「はぁ?」








…多分、コイツよかマシな性格をしているはずだ。

















アトガキ


何気に更新待ちしていた作品のひとつw
無双を先に更新しようと思っていたので、かなり前から待機しておりました爆笑
これからどんどん奴らと絡んでいただきたいのですが…書けるか、私?汗
早く本編に入りたいですねぇ…(遠い目

では、これにて!!

2007.9.3(Mon)