〜!」












今日も、来た。


は溜息をついて竹簡を棚の端に置いてその元気で間抜けな声の元に向かった。


昼前の、お腹の虫が鳴きだすこの時間よく聞く…この声。
この声の持ち主に性別がばれてからというもの、何故かに懐いてしまった。
もう王に女だとばれてから3日が経つのに、朝廷では王と邵可以外にはまだばれていない。
きっと秘密を黙秘してくれているのだろう。

嬉しいこと、なのだが…劉輝に限っては毎日のようにの横に居る。
そんなことじゃ、偉い人に怪しまれてばれてしまいそうだ。




そして劉輝は少しだけ仕事の邪魔だったりした。

棚の一番上に古い書物を置こうとすれば、子供に高い高いをするように持ち上げてきたり、
「今日は暇だ」と言ってはちょっとした娯楽に付き合わされるなど。





高い高いなんてされなくても、椅子を使えば難無く届く場所。


よくわからない娯楽に付きあっている間に、邵可がドシンと棚を倒す。







そんなこんなで…劉輝が来るようになったおかげで無駄な災難続きだった。
流石のも溜息が多くなってしまう。

だからと言って「邪魔だ」とは言い切れなかった。
ちゃんと手伝ってくれたりしてくれるからだ。

そういうわけで、毎日劉輝がのこのことここにやってくる訳で。










、見てくれ!」







劉輝は無邪気な笑みを浮かべて身長の半分くらいありそうな大きな壷を抱えての元に持ってくる。
「体を鍛えるものが欲しい」とが昨日言っていたのを聞いたので、何か探して持ってこようと思ったらしい。
それでこの壷を朝方にどこからか見つけてきたのだ、と劉輝は満面の笑みを浮かべて言う。



これは多分、…いや絶対に高価な壷だ。
よく美術館とかに置いてある、アレだ。


そんな凶器より恐ろしい壷を使ってどう鍛えたらいいんだか。











「気に入ったか??」

「あのなぁ……」

「廊下に置いてあったので持ってきた。模様が美しいだろう?」









ほら、ここ。

と訳のわからない変な模様を指差す。
花…がモチーフだということはなんとなくわかるのだが、やはり奇怪な模様に頭を捻らせる


…と、そんなことはさて置き。


城の廊下にあった…となると、十中八九国宝級の壷だろう。
そんな物を割ったら死刑にでもなりそうなものをたやすく抱えてくるとは、流石一国の王とでも言うべきか。

は後で壷を返しに行こうと決め、まずは壷を降ろすよう言って劉輝を椅子に座らせた。










「劉輝、私の欲しいもんなんて持ってこなくていいんだよ?…てか、こんなの怖くて持てないって…」

「そうか。が喜ぶと思って持ってきたのだが……」

「まぁ、嬉しいけどね?これは鍛えるには不適切なもんなのだよ。」

「うう…そうなのか…」








そうなのかって…。

劉輝は今までどうやって鍛えてきたのやら。
先程まで浮かべていた満面の笑みは消え、意気消沈する劉輝。
そのしょぼくれる姿はまるで犬だ。


犬…といえばどこぞの半妖を思い出す。












?」

「劉輝は犬決定!」

「は、…はぁ?」

「とにかく仕事するからさ、劉輝はそこら辺で遊んでろ」

「今、余を適当に…」

「んなことないっての!…ま!壷、ありがとね!」









憎めない奴め、と劉輝の頭をクシャクシャと撫でて、いざ本の山へと向き直った。
今日こそ完璧に整頓してやるのだ、と意気込んでいると少し黙っていた劉輝が椅子から立ち上がってを後ろからおもいっきり抱きしめた。







「おい!何だよ!?」

「犬と言われたからには飼い主と戯れなければ、と思ったのだが…」

「馬鹿!私は飼い主じゃないっての!」


「なら飼い主なってくれ!」


「ならない!ってか何気に爆弾発言すんな!」

〜〜!」

「更に抱き着くな!!!!」







巻き付く腕をほどこうにもほどけず、は午前中ずっと劉輝を腰につけたまま仕事をすることになってしまった。
劉輝は、が驚くだろうと思って抱きついてみたのだが、案外さらりとかわされてしまい少しばかりつまらなそうにしていた。

もっと驚いてくれたっていいじゃないか…。








「(でも余は諦めないぞ!)」








そんなことに執着しなくてもいいのだが…。
劉輝は同様意気込むと、次期を見計らって何かをしてやろうとの後ろに座りこんだ。

もちゃんとした女子。
ちょっとぐらいは乙女の恥じらいがあってもいいだろう、と劉輝は考えて。









「少しばかり失敬」



「ぎゃっ!!!!!!!!!!!!!!?」

「中々……、驚いたか?」






「お…お………お前…」









後ろから懐に触れるという最大の禁忌を侵してしまった。

もちろんこの作戦は成功。
しかし、の平手も成功してしまったので、劉輝はあえなく床に臥すこととなった。























と、その様子をこっそりとのぞいていたのが約一名。

邵可が連れてきた眉目秀麗の手伝い人を一目見ようとやってきたのだが、先越されてしまったようだ。







「お手が早いことで」







流石、男色家。
彼が寝台に呼ばれる日はそう遠くないだろう。

男はふっ、と口の端を少しだけ吊り上げて府庫前から静かに去って行った。





































「たーだーいーま〜いハニー!」




「お帰りなさい…って、止めてよその変な挨拶!」

「とか言いつつ秀麗もこの前言ってたくせに」

「…あれは、ち、ちょっと言ってみたくなっただけよ!」






は色んな言葉を知ってるからついつい言ってみたくなるのよ、と秀麗は顔を赤らめて言った。
意味は一応「ただいま」とだけしか教えていない。
これをいつか静蘭に言わせるためだ。
もし言ったらすぐにでも意味を教えて、地味に恥ずかしがらせてやるのだ。


変な悪巧みを胸に、は秀麗と一緒に自分の部屋の方へ行くと、男装用の服を脱いで薄い黄色の女性用の服を着た。
まだこの複雑な服を一人で着れず、秀麗に手伝ってもらわなくてはならない。
早く着こなさないといけない…と思っているが、性悪静蘭から秀麗を横取りできる唯一の時間なので、これはこれでよしとする。








「はい!できた!」

「ありがとう、秀麗」

は本当に美人なのに…男の子にも見えるって得よね…」

「きっと秀麗も大丈夫だって!胸無いし!」

「なっ!!!」








ちなみにはC。
男装するときはサラシみたいなものをする。
秀麗は…あまりない。
サラシを巻かなくても男装できる程度で…。






ー!!!!!!!!!!!!」

「ゴメンって!!秀麗はボインだ!!」


「井戸に沈めてやるんだからー!!!」


「それは止めてくれ!」







そのコンプレックスがいつか役に立つ日が来るとも知らずに。


















場所変わって、紅家の庭。

騒がしい家の中とは違い、庭はやけに寂しく静かで寒かった。
そんな中、と一緒に帰ってきたはずの邵可がぽつりと呟いた。










「どうも私は忘れられてしまったようだね」








少しばかり、ホロリと涙。
結局、邵可は静蘭と共に帰宅したのだった。

















アトガキ


はいのはいのはーい!やっとの更新!!汗
なんとか6話です!^^;
ちょっぴりですが、主上、セクハラしてます。(ぇ
流石のヒロインもこれには驚いたようです笑
そしてまたまたちょっぴりですが、藍将軍も出てます、ほんの少しだけ…汗
さてさて、次は奴もでますぞー!;

2007.5.27(Sun)