「…ここに来て間もないのに…」
妙に蜀に定着してしまったような気がする。
尚香や小喬、大喬も天狼姫であるや豪傑張飛の娘と仲良くしているし、甘寧も凌統も、何かと蜀の武将達と馴染んでいた。
もちろん、この自分も。
そして、自分は孫呉の災厄となるであろう天狼姫を好きになってしまった。
…任務を忘れているわけではない。
ちゃんと、周瑜にも情報を提供している。
ただ、その提供するという行動に罪悪感を感じはじめた。
好意を持って接しているのに、それさえも裏切り行為のような気がする。
周瑜のような考えは一切、持ち合わせていないのに。
「複雑ですね」
ふう、と溜息をついて庭から目を離したとき、客室から周瑜と孫策の声が聞こえた。
少し気になり、静かに耳を傾けてみた。
「そろそろ呉にもどらねばならない」
「なかなか楽しい所だったしな!まだまだ滞在したいが、呉をこれ以上留守にするわけにはいかねぇ。」
「我々は明後日にでもここを出る。…それでいいな、孫策?」
「ああ。そうとなりゃ、食糧と水を調達しようずぇ!」
「諸葛亮のことだ…我々に大体のものを調達しているに違いない。」
「そう難しい顔すんなよ、な?!ありがてぇじゃねぇか!」
「…君のその明るい性格が羨ましいぞ、孫策」
確かに。
周瑜はどこか、諸葛亮を毛嫌いしすぎているところがある。
そんな周瑜を孫策がなだめているなんて。
滅多にない会話に思わずクスッと笑ってしまった。
が、すぐに気分が沈んだ。
もう、帰ってしまうのか。
この蜀に来たのが昨日のことだったような気がしてならない。
今では呉城よりも居心地がいい場所となっているのに。
もう、戻ってしまうのか。
「文通もあれからめっきりですね」
あれから文通ができていないのは、の護衛強化されたから。
魏の襲撃以来、絶対誰かがの隣にいるのだ。
部屋に行こうも、部屋の前に護衛兵。
流石の陸遜も、強行突破まではやろうとは思わなかった。
今強行突破してしまえば、彼女に迷惑をかけてしまう。
また会える時まで、と心に押し込むが、それでもこの想いには歯止めが効かない。
どうしようもないこの想い、文では伝えきれないのだ。
直接、に伝えなければ彼女は気付いてくれない。
「…殿に会うためには……」
厠に行くときに会う、なんてはしたないことはできない。
…ここは変装してでも行かないとだめ、なのだろうか。
「(…はは、なんでこんなことに頭を使っているんでしょうね。)」
いっそのことをひっ攫えばいいのに。
最初に否定した人攫い案、今の自分なら実行してしまいそうだ。
「はぁ」
ただひたすら溜息をつく陸遜の前に見覚えのある頭が見えた。
それは、いつもの歩調でやかましい鈴の音を鳴らしながら、廊下を歩いてゆく。
「甘寧殿、何してるんです?」
「ああ?もうじき呉に戻るかもしんねーからって孫権様に言われてよ。船の準備をしにいくんだ」
「今からですか?」
「そうだけどよ。…おい、陸遜、お前ちゃんとケジメはつけてきたんだろうな?」
「は?」
ケジメ?と聞き返すと、甘寧はニヤッとして陸遜の帽子を小突く。
「天狼の姫さんとだよ。まさかこのままさよならってか?」
「…貴方には関係ないことです。」
「関係ねぇが、お前のその顔見てるとイライラするぜ。明日には敵になってるかもしんねぇのによ。」
「…」
甘寧はポン、と帽子を押さえつけ、「じゃあな」と一言残して行ってしまった。
ぐしゃっと乱れた髪をまた整え、帽子をきちんと被る。
そんなことわかっている。
…わかっている。
このままではいけない。
せめて、ちゃんと、もう一度自分の想いを伝えなければ。
もう一度会えるかもわからないこの世の中。
いつ敵になってもおかしくない人。
時を逃せばそれで終わりだ。
「…今夜、決行です」
が答えられなくてもいい。
ただ、この想いを伝えるため。
静かな夜が来るのを待とう。
夜が来れば、貴女に会える。
その時を待とう。


アトガキ
やっとこさ、更新ですよ笑
書きたいところまで書けないwwww汗(ぇ
なんか早いですが、呉が帰ってゆきます。
陸遜よりも凌統出したかったのですがw
毎回思うのは、文章苦手感がよく出てるということですね笑
もうそろそろ奴らも帰ってきます。
多分。(帰りなさい
2008.8.12(Tue)